大井戸茶碗、それは大名たちがあこがれた権威と大器の象徴。

井戸茶碗特集の第一弾は大井戸茶碗でございます。大井戸は井戸と呼ばれる茶碗の中でも特に大名たちが血眼になって探し回った茶碗であり、萩の大名、毛利輝元は自らの領内で井戸茶碗に似た茶碗を作らせようと萩焼を興したくらいであります。

井戸茶碗には大きく分けて三つの分類があり、大井戸・小井戸・青井戸と分けられます(他にも小貫入、井戸脇とありますが)。大井戸はこれらの中でも特に大振りなものをそう呼ぶのですが、特に小井戸との差異があいまいであり、見る人によって分類の分れる井戸茶碗もあります。たとえば小井戸の代表格として挙げられる「老僧」は大きさ的にはほとんど大井戸と変わりないくらいであり、大井戸に入れてしまってもよいくらいであります。


大井戸茶碗の魅力をおおざっぱですが三つにまとめてみましょう。まずは「井戸型」と呼ばれる逆三角形の天目茶碗と似た形状であります。特に大井戸はこの逆三角形が非常にきれいでしかも大柄なので王者のような風格を持っています。特に喜左衛門井戸などは形の上での見た目が完璧であり、まさに王者の中の王者なのであります。

二番目として挙げたいのは、琵琶色の美しさであります。当然琵琶色の色合いは井戸茶碗に共通してみられますが、特に大井戸は本当にいい味を出した色合いのものが多く、やはり色合いが地味になる傾向がある小井戸、青っぽい色合いが混じる青井戸と比べるとこれぞ真の琵琶色という気がします。特に細川井戸の色合いは何にも勝って美しいものがありますし、一方加賀井戸のように釉薬の具合によってさまざまな表情を見せるものもあります。大井戸は実に奥深い色の世界をもっているのです。

最後は目に見えるものではありませんが、伝来の豪華さが挙げられます。大井戸茶碗は多くの戦国大名や商人が欲しがったので、それだけ有力な人々の手を渡ってきています。中には伝来不明のものもありますが、そういったものですら多くは凄い素性の人々の下にあったことでしょう。豊臣秀吉は茶の湯好きであり、物豪であり、多くの茶道具を所持しておりました。これから紹介する井戸の所持者にも秀吉の名が何度も出てきますが、中でも筒井筒という銘の大井戸は戦国大名の筒井順慶と秀吉が所持したということで相当な箔がついています。大井戸茶碗は特に伝来と密接な関係のある茶碗であり、こうした背景も欠かせないでしょう。

それでは個別に大井戸茶碗を見ていきましょう。特に大井戸茶碗を語る上で外せない重要であろう十椀を先に紹介します。


029















1、銘「喜左衛門」 竹田喜左衛門、本多忠義、松平不昧伝来 大徳寺孤篷庵蔵 国宝

高さ 8.2~8.9cm 口径15.4cm 高台径5.3cm~5.5cm


泣く子も黙る喜左衛門井戸。私は根津美術館の井戸茶碗展で拝見しましたが、やはり奇跡の茶碗というほかありません。形の均整、貫入、カイラギ、色の美しさ、どれをとっても素晴らしいです。

拝見してわかった事なのですが、喜左衛門井戸には少し傾きがあります。高台の具合からこうした歪みが生まれたのでしょうが、これがこの茶碗を非常に特異で異質な存在にしているのではないかと思います。何か凄い存在感をこの茶碗が発しているのは確かであり、その根源がその絶妙な歪みなのでしょう。

また、見る場所によって貫入の景色がずいぶん違うのも驚きました。特に茶碗内部の見込み部分はまるで干からびた砂漠のようであり、乾いた質感が見て取れるのに対し、外側には黒ずんでいたり光沢のある部分があったりまったく違う表情を見せます。まるで一つの惑星を見ているかのような凄い世界観がこの茶碗にはあるのです。




048


















2、銘「加賀」 土岐美濃守、田沼家、松平不昧伝来 個人蔵

高さ8.2cm 口径14.5~15.4cm 高台径4.9~5.0cm


正体不明、変幻自在の加賀井戸。喜左衛門井戸とは全く対照的な大井戸であり、そこまですぐれた形状を持たず、むしろ非常に大人しい印象です。貫入はまあまあ見られるものの、カイラギはかなり中途半端であります。なぜこの茶碗が天下三大井戸なのかというと、それは景色の美しさが見事だからです。見ようによっては黒ずんで見えるし、真っ白にも見えるというこの加賀井戸の不思議さは釉薬に起因するようであり、その変幻自在っぷりには松平不昧公も感服したことでしょう。




067
















3、銘「細川」 細川三斎、仙台伊達家、松平不昧伝来 畠山記念館蔵 重要文化財

高さ9.4cm 口径15.8cm 高台径5.5cm


優等生の品格高き細川井戸。井戸茶碗の魅力をすべてつぎ込んだような完璧な茶碗であり、喜左衛門井戸に匹敵するとの声もあります。特に高台のカイラギの見事さ、白い釉薬が白き山並みのように垂れている部分などは喜左衛門井戸を上回る見事さがあります。喜左衛門井戸にもし威圧的な印象を感じる人がいるとすれば、細川井戸の優雅な印象には心奪われるに違いないと思います。かの利休七哲で戦国大名として勇名をはせた細川忠興の所持であったこともまたこの茶碗の名声を高めています。



002

















4、銘「筒井筒」 筒井順慶、豊臣秀吉、毘沙門堂伝来 個人蔵 重要文化財

高さ7.9cm 口径14.5cm 高台径4.7cm


天下三大井戸に匹敵する見事さを持つのがこちらの筒井筒。背の高い高台、すらっとした形状が非常に高貴さを感じさせてくれます。喜左衛門井戸や細川井戸のような貫入、カイラギの見事さはありませんが、玄人好みな渋さを持った茶碗だと思います。この写真からは見えませんが、一つ茶碗には縦に大きな亀裂が走っており、これは秀吉の小姓が誤ってこの茶碗を落としてしまったときに出来たものだと言われています。



062















5、銘「美濃」 小堀遠州、酒井宗雅、松平不昧、団琢磨伝来 五島美術館蔵 重要美術品

高さ8.7cm 口径15.0~15.2cm 高台径4.8cm


打って変わってさっぱりした印象を持つのが「美濃」。琵琶色の色合いがかなり白っぽく、わりに公家好みかもしれません。小堀遠州、酒井宗雅、松平不昧という三人の大茶人の手を経ているのも非常に箔があります。この井戸茶碗らしくない色の白さは遠州の好むところであったでしょう。



063















6、銘「有楽」 織田有楽、紀伊国屋文左衛門、松永耳庵伝来 東京国立博物館蔵 重要美術品

高さ9.3cm 口径15.0~15.2cm 高台径5.4~5.6cm


喜左衛門井戸や細川井戸に次ぐくらいの大井戸の優品だともいわれる有楽井戸。形の落ち着きぶりも見事ですが、やはり白の釉薬のかかり具合がとっても見事で景色として見ごたえがあります。




061

















7、銘「越後」 越後殿、六角三井家、岩崎家伝来 静嘉堂文庫蔵 重要文化財

高さ8.7cm 口径14.5cm~14.7cm 高台径5.3cm~5.5cm


重要文化財に指定されるほどの高い評価を受けている越後井戸。整った形をしており、貫入の具合にはムラがありますが、逆にこれが珍しくこの茶碗の一つの見どころでしょう。口縁の黒ずんだ部分も特徴的であります。この茶碗にはいくつも縦筋のヒビが入っておりますが、これは昔からあって鑑賞どころとされてきたみたいです。



084
















8、銘「松永」 小堀遠州伝来 個人蔵 重要美術品

高さ8.2cm 口径14.6cm 高台径5.5cm


緊張感のある形状を持つ優品の松永井戸。この形状の見事さは大井戸でも随一であります。パッと見だとあまり井戸っぽくないようにも見えます。かの有名な戦国大名で数寄者であった松永久秀の所持だったと伝わっております。



060
















9、銘「対馬」 対馬宗家、若狭酒井家伝来 湯木美術館蔵

高さ8.7cm 口径14.1cm 高台径5.1cm


先の「越後」と似た雰囲気を持つのがこちらの「対馬」。対馬の大名であった宗氏が所持していました。非常に整った形をしており、ムラのある貫入を持つという珍しさもまた「対馬」と似ています。



大279

















10、銘「坂本」 明智光秀、豊臣秀吉、戸田露吟伝来 野村美術館蔵 重要美術品

高さ8.4cm 口径14.5cm 高台径4.3cm


明智光秀の所持であったとされる坂本井戸。「筒井筒」同様に形が優美な印象を与えてくれます。右側に入っている傷は入手した野村美術館創設者の野村得庵が茶会で使った際にはずれてしまったという逸話も伝わっています。

これら十椀の外にも多くの逸品の大井戸がたくさんあります。伝来と合わせて大井戸の美の世界をご堪能ください。


040
















11、銘「宗及」 津田宗及伝来 根津美術館蔵 重要美術品

高さ8.6~8.8cm 口径15.7~16.0cm 高台径5.5cm





041
















12、銘「福嶋」 福島正則、前田利常伝来 前田育徳会蔵 重要美術品

高さ8.2cm 口径14.6cm 高台径5.5cm





大108
















13、銘「信長」 織田信長、京極高次、豊臣秀吉、古田織部、丸亀京極氏伝来 畠山記念館蔵 重要美術品 

高さ9.0cm 口径15.0cm 高台径5.3cm





051

















14、銘「金地院」 金地院、朽木昌綱、岩崎家伝来 静嘉堂文庫蔵 重要美術品

高さ9.1cm 口径15.7cm 高台径5.3~5.4cm





057
















15、銘「さかい」 根津美術館蔵 重要美術品

高さ8.5~9.2cm 口径15.7~16.3cm 高台径5.8cm




058
















16、銘「三芳野」 松平不昧伝来 根津美術館蔵 重要美術品

高さ8.2~8.6cm 口径15.8~16.0cm 高台径5.3cm



044

















17、銘「幾秋」 毛利家伝来 個人蔵 重要美術品

高さ8.9cm 口径15.3cm 高台径5.5cm




064
















18、銘「本阿弥」 姫路酒井家伝来 MOA美術館蔵

高さ8.6cm 口径14.7~15.0cm 高台径5.0cm


066
















19、銘「毛利」 毛利家伝来 出光美術館蔵

高さ8.5~9.1cm 口径14.5~14.8cm 高台径5.3cm 



032














20、銘「金森」 金森宗和伝来 MIHO MUSEUM蔵 重要美術品

高さ7.4~7.5cm 口径15.0~15.2cm 高台径5.3cm






033














21、銘「古田割高台」 佐久間信栄、今日庵伝来 根津美術館蔵

高さ6.7~7.5cm 口径15.8~16.0cm 高台径 5.3cm









034
















22、銘「高麗井戸」 尾張徳川家伝来 徳川美術館蔵

高さ8.9cm 口径14.9cm 高台径5.6~5.8cm







035
















23、銘「履霜」 船越永景伝来 個人蔵

高さ8.5~9.0cm 口径15.2cm 高台径6.0cm





036

















24、銘「巌」 有沢式善伝来 大光明寺蔵

高さ8.7~9.3cm 口径14.7cm 高台径5.8cm




037

















25、銘「玉水」 大光明寺蔵

高さ9.5cm 口径16.3cm 高台径7.2cm




038
















26、銘「蓬莱山」 松永耳庵伝来 個人蔵

高さ8.9cm 口径15.8cm 高台径6.0m





039

















27、銘「大高麗」 安宅冬康、尾張徳川家伝来 徳川美術館蔵

高さ8.5~9.0cm 口径15.0cm 高台径6.3cm






042

















28、銘「妙喜庵」 個人蔵

高さ8.5cm 口径14.5~15.0cm 高台径5.5cm






043

















29、銘「九重」 松浦家伝来 五島美術館蔵

高さ8.2~8.9cm 口径14.5~14.7cm 高台径5.8cm





045

















30、銘「三室」 個人蔵

高さ8.7~9.0cm 口径15.0~15.4cm 高台径5.3cm





046















31、銘「堀」 堀大和守伝来 個人蔵

高さ8.2~8.5cm 口径14.8cm 高台径5.4cm







047
















32、銘「難波江」 個人蔵

高さ8.3cm 口径16.0~16.3cm 高台径6.0cm






102

















33、銘「江山」 藤田美術館蔵

高さ8.0~8.4cm 口径14.7cm 高台径5.2~5.4cm





049

















34、銘「村雲」 細川三斎伝来 個人蔵

高さ8.7~9.1cm 口径15.5~15.7cm 高台径6.1cm





050















35、銘「佐野」 京都佐野家伝来 東京国立博物館蔵

高さ8.2cm 口径15.2~16.0cm 高台径5.8cm




052
















36、銘「上林」 豊臣秀吉、上林竹庵、三井家伝来 三井記念美術館蔵

高さ8.6~9.1cm 口径14.8~15.1cm 高台径5.5~5.7cm




030














37、銘「わか草」 柳営御物 個人蔵

高さ7.8~8.0cm 口径15.8~16.0cm 高台径6.0cm




031














38、銘「本願寺」 西本願寺伝来 個人蔵

高さ7.9~8.3cm 口径17.0~17.8cm 高台径6.3cm




059


















39、銘「八文字屋」 三井家、鴻池家伝来 五島美術館蔵

高さ9.5~9.9cm 口径15.2cm 高台径5.7cm




053















40、銘「蓬莱」 武野紹鴎、今井宗久伝来 藤田美術館蔵

高さ8.2~8.7cm 口径15.2~15.5cm 高台径5.2~5.5cm



054















41、銘「平野屋」 個人蔵

高さ8.0~8.3cm 口径14.7cm 高台径5.2~5.3cm




055

















42、銘「大文字屋」 平瀬家伝来 個人蔵

高さ8.7cm 口径15.3cm 高台径5.5cm






056

















43、銘「瀬田」 銀閣寺蔵

高さ8.4~9.0cm 口径15.9~16.3cm 高台径5.5cm




065
















44、銘「雨雲」 北村美術館蔵

高さ8.4~8.7cm 口径14.2~14.7cm 高台径5.2cm







大150
















45、銘「藤沼」 耕三寺美術館蔵

高さ6.4cm 口径15.2cm 高台径5.1cm




大220
















46、銘「燕庵」 藪内家、聖護院伝来 香雪美術館蔵
 
高さ7.0cm 口径13.9~14.5cm 高台径5.0cm




大253

















47、銘「立華」 大聖寺藩松平飛騨守伝来 万野美術館旧蔵

高さ8.0cm 口径14.3~14.5cm 高台径5.4cm






bunka1_140110














48、銘「山伏」 日本民芸館蔵



img_4


















49、銘「野分」 逸翁美術館蔵


053
















50、銘「常夏」 松平不昧伝来 個人蔵

高さ8.5~8.8cm 口径14.8cm 高台径5.1~5.3cm




063
















51、銘「坂部」 豊臣秀吉伝来 個人蔵

高さ8.9~9.4cm 口径14.4~14.7cm 高台径5.2~5.5cm






066

















52、銘「宗及」 蜂須賀家伝来 個人蔵

高さ8.8cm 口径14.9cm 高台径4.9~5.2cm





070















53、銘「天王寺屋」 個人蔵

高さ9.2cm 口径15.8cm 高台径5.8cm




048















54、銘「暁天」 個人蔵

高さ8.5cm 口径15.2cm 高台径5.2cm






095
















55、銘「高松」 高松藩松平讃岐守伝来 個人蔵

高さ8.4cm 口径15.3~15.5cm 高台径4.8cm




097

















56、銘「磯清水」 徳川美術館蔵

高さ8.7cm 口径14.2~14.5cm 高台径5.5cm




072















57、銘「あさか山」 加賀川崎家伝来 藤田美術館蔵

高さ7.8~8.4cm 口径14.6~14.8cm 高台径5.1cm





078
















58、銘「下間」 下間家伝来 個人蔵

高さ7.2cm 口径13.9~14.2cm 高台径4.8cm




104

















59、銘「酒井」 鶴岡酒井家伝来 本間美術館蔵

高さ8.2~8.6cm 口径14.2~14.6cm 高台径5.6cm




172


















60、銘「翁」 益田鈍翁伝来 MOA美術館蔵

高さ9.0cm 口径14.5cm 高台径5.7cm




以上これまでに収集できたのは60椀です。まだ重要美術品に指定されている「浅野」や「龍光院」を見つけていないので探索中であります。次回は「小井戸編」をおおくりします。