小井戸には、大井戸には無い魅力。

井戸茶碗特集、第二弾は小井戸茶碗です。何かと大井戸茶碗の影に隠れて評価の低い小井戸ですが、実は作風も形も色も大きさも様々。同じく大きさとしては小さい青井戸茶碗には一定した作風があってどれも似た雰囲気をもっているのとは大違いです。

大井戸と小井戸の違い、それはわりかし小さそう、というような各人の主観的な判断によって決まります。なので人によっては大井戸として分類されるものも今回の小井戸特集には入っております。

小井戸は大井戸と違って大名が所持していたとか伝来の凄さはあまりありません(「老僧」は除く)。しかし千利休や小堀遠州といった新しい価値観を世に示そうとする茶人たちは好んで小井戸を使いたがっていたことは伝来から察せられます。「甲」である大井戸には無い魅力を「乙」な小井戸に開拓しようとしていたわけであります。


小井戸の特徴をちょっと強引にでも挙げてみると、まず背が小さいということ。大井戸茶碗がきれいな逆三角形を描いているのとは違って小井戸は横に広いような印象を受けます。あとは下の高台と上の口縁部の直径の比で見たときにだいたい1対2かそれ以下になる傾向があります。つまり大井戸よりも高台の存在感が大きいということであります。

上の特徴に当てはまらない小井戸は、つまり小井戸らしくない小井戸と考えてもらえればいいのではと思います。私は小井戸の最優品として1番目の「小塩」を挙げていまして、他にも「老僧」「忘水」という候補がありましたが、小井戸らしさという点を考慮して選定しました。


それではまず私が選んだ小井戸の重要品の5椀を見て行きましょう。




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1、銘「小塩」 小堀遠州、堀田相模守、松平不昧伝来 個人蔵

高さ7.9cm 口径14.5cm 高台径4.7cm


小井戸の中でも轆轤目が見えず、寂とした風情を持っていて筆頭にあげられることもあるのがこちらの「小塩」。何か悟りを拓いたかのような、この波ひとつ立てない感じはどのほか井戸茶碗にも見られません。

波、といえば正面に見られる白の釉薬の垂れ具合はまるで打ち寄せる波のようです。こんなに綺麗に白の釉薬が浮き出ている井戸茶碗も稀有であります。まるで天下三肩衝の「初花」が垂れる飴釉の二本の筋でもって讃えられるのと一緒であります。

小堀遠州が所持してのちに松平不昧が入手しているのは不昧が遠州をとにかく慕っていたからでありますが、この茶碗には侘びたところもあり、遠州好みというよりは不昧好みにぴったりな気がいたします。よく見ると貫入もカイラギも入っているのがこれまた凄い。何しろこれほど「静」的な井戸茶碗はほかにありません、見事です。



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2、銘「忘水」 小堀遠州伝来 根津美術館蔵

高さ6.9~7.5cm 口径13.8~14.3cm 高台径5.2cm


「小塩」が不昧好みだとしたらこちらの「忘水」は明らかに遠州好みであります。見た目はほとんど大井戸であり、私もずっと大井戸だと思ってましたが、所蔵の根津美術館では小井戸に分類されています。

大井戸的な逆三角形の美を見せておりますが、やはり何といっても白いです。白は小堀遠州の大好きな色合いですから普通の琵琶色の井戸ではなく遠州はこの「忘水」を選んだのでしょう。白っぽい景色の中の貫入が非常に乙であり、いかにも遠州らしい井戸茶碗と言えます。



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3、銘「老僧」 豊臣秀吉、古田織部、水戸徳川家伝来 藤田美術館蔵

高さ7.7~8.2cm 口径14.2~14.9cm 高台径6.2~6.5cm


凄い伝来の小井戸茶碗、「老僧」です。よく小井戸の代表作としてこの茶碗が挙げられることが多いのですが、どうも大井戸風情を出しているので3番目に持ってきました。まず形がだいぶ変わっており、筒茶碗のように鋭い立ち方をしています。この不思議な形は「へうけ」にも通ずるものがあり、古田織部所持もうなずけます。

またこれと並ぶ見どころが高台のカイラギです。ここまで見事なカイラギは細川井戸くらいでしょうか。貫入はあまり目立ちませんが、琵琶色の色合いが美しいことこの上ありません。「筒井筒」にしろ、所持した豊臣秀吉の数寄眼の鋭さには驚かされます。




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4、銘「六地蔵」 小堀遠州伝来 泉屋博古館分館蔵

高さ8.1cm 口径13.6~13.9cm 高台径5.1~5.3cm


「老僧」と並ぶ変わり物がこの「六地蔵」。高台がまるでつぶれたようになっており、窯中で焼いているときに何があったのかと想像してしまいます。形の異様さばかりではなく、何か所もできた白の釉薬だまりは大変見どころであります。この井戸茶碗、もうしかしたら失敗作だったのかもしれませんが、所持した小堀遠州は「甲」の井戸茶碗がもてはやされることに対する対抗意識があってこれを選んだんでしょうね。銘の「六地蔵」とはおそらく遠州が伏見奉行として持っていた六地蔵の屋敷からとっていると思います。



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5、銘「江岑」 江岑宗左伝来 畠山記念館蔵

高さ6.4cm 口径13.5cm 高台径5.5cm


最後の一椀は私の眼で選ばせていただきました。畠山記念館の「江岑」です。表千家四代目の江岑宗左が所持していたことで知られます。

まずこの小井戸、非常に侘びています。この茶碗の非常に小さいこと、なんとも肩をすぼめて端に引っ込んだような感じがします。そしてなんといってもこの傾きです。喜左衛門井戸もそうでしたが、傾きが井戸につくと何か迫力が増す気がします。この茶碗もより一層侘びたような効果をもたらしているのです。

この茶碗には貫入もカイラギもあまり見られませんが、逆にそれが見栄を捨てた感じがして良いのです。さすがは先代の宗旦とはがらりと茶風を変えて利休に帰る姿勢を示した江岑宗左だけはあります。

以上が私の選んだ小井戸の重要な五椀でした。それでは以下、小粒ぞろいの小井戸の多様なる世界をご覧ください。




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6、銘「奈良」 黒田家伝来 出光美術館蔵 重要美術品

高さ7.1cm 口径15.5cm



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7、銘「須弥」 三井記念美術館蔵

高さ8.0cm 口径14.1~14.8cm 高台径5.1cm


※「須弥」は元々大井戸の中でも特に大きいというような部類の茶碗でしたが、古田織部が裁断して小さくしたことにより、今では大きさ的には小井戸として扱われています。ただしもともとは大井戸だったので今も大井戸として扱われてもおり、かなり人によって分類が分かれています。



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8、銘「千種」 個人蔵

高さ6.1~6.3cm 口径14.1~14.3cm 高台径4.9cm




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9、銘「柴の庵」 個人蔵

高さ6.3~6.6cm 口径14.0~14.5cm 高台径5.3~5.5cm




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10、銘「常盤」 個人蔵

高さ6.2~6.7cm 口径13.4~14.7cm 高台径5.3cm



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11、銘「あやめ」 個人蔵

高さ6.2cm 口径12.8cm 高台径4.8~5.0cm





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12、銘「朝かほ」 松平不昧伝来 個人蔵

高さ7.0cm 口径14.8cm 高台径6.0cm





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13、銘「利休小井戸」 千利休伝来 不審庵蔵

高さ5.4~5.8cm 口径12.7cm 高台径5.4~5.5cm




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14、銘「蓬庵」 個人蔵

高さ7.0cm 口径13.9cm 高台径5.0cm





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15、銘「鳴戸」 根津美術館蔵

高さ7.3cm 口径14.8~15.0cm 高台径5.4cm




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16、銘「たま水」 個人蔵

高さ7.3cm 口径14.6~14.8cm 高台径4.9cm




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17、銘「有明」 本阿弥光悦伝来 個人蔵

高さ6.4cm 口径13.4cm 高台径4.4cm




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18、銘「山の井」 個人蔵

高さ6.5cm 口径14.8cm 高台径4.7cm




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19、銘「龍田」 個人蔵

高さ7.2cm 口径13.8~14.3cm 高台径5.2cm




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20、銘「白雲」 朽木家伝来 個人蔵

高さ6.9cm 口径14.7~15.0cm 高台径5.0~5.2cm






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21、銘「はつ霞」 個人蔵
 
高さ6.8~7.4cm 口径13.5cm 高台径4.8cm




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22、銘「五月雨」 永青文庫蔵

高さ5.8cm 口径15.8cm




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23、無銘 東京国立博物館蔵

高さ6.5cm 口径14.0cm 高台径4.6cm




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24、銘「玉兎」 金沢山川家伝来 石川県立美術館蔵

高さ6.7cm 口径13.4~14.0cm 高台径5.1cm







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25、銘「宇治」 織田有楽伝来 個人蔵

高さ6.8~7.2cm 口径15.2cm 高台径4.9~5.1cm





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26、銘「高天」 姫路酒井家伝来 個人蔵

高さ6.8cm 口径14.8cm 高台径4.7~4.9cm




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27、銘「松陰」 藤堂家伝来 個人蔵

高さ7.2cm 口径14.1~14.5cm 高台径4.6~4.8cm





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28、銘「大文字屋」 個人蔵

高さ8.2cm 口径13.3~13.8cm 高台径5.0cm




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29、銘「樊 噲」(はんかい) 鴻池家伝来 大松美術館蔵

高さ7.2~7.5cm 口径13.5cm 高台径4.6~4.7cm




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30、銘「利休」 個人蔵

高さ7.4cm 口径15.5cm 高台径5.4cm




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31、銘「峯松」 南三井家伝来 個人蔵

高さ7.2cm 口径15.0~15.4cm 高台径4.9~5.0cm





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32、銘「桜井」 松平不昧、高橋掃庵伝来 個人蔵

高さ7.1cm 口径13.8~14.0cm 高台径4.5~4.8cm





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33、銘「面影」 藤田美術館蔵

高さ7.4~7.9cm 口径14.0cm 高台径5.1cm





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34、銘「金澤」 個人蔵

高さ6.7cm 口径13.5cm 高台径5.2cm




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35、銘「君不知」 原三溪伝来 個人蔵

高さ5.6~5.7cm 口径13.1~13.3cm 高台径4.8~5.2cm





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36、銘「池」 小堀遠州、前田家伝来 個人蔵

高さ7.1cm 口径14.3~14.6cm 高台径4.8~5.1cm





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37、無銘 鴻池家伝来 個人蔵

高さ6.7cm 口径14.5~14.7cm 高台径4.4cm




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38、銘「夏木立」 個人蔵

高さ6.2cm 口径13.1cm 高台径5.5cm




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39、銘「紅葉山」 石水博物館蔵

高さ7.8cm 口径16.3cm 高台径5.7cm





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1、銘「石清水」 鴻池家伝来 出光美術館蔵(小貫入)

高さ6.3cm 口径12.6m 高台径5.7~5.9cm

ここからは井戸茶碗でも「小貫入」と呼ばれるものについて紹介します。小貫入とは、井戸の中でも特に貫入の細かさが素晴らしいものをこう呼んでおります。当然これも便宜的な分類であり、多くは小井戸として分類しても差し支えないような大きさであります。小貫入で最優品と言われるのが42番の「雄蔵山」であり、小貫入の木順作とされています。




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2、小貫入 銘「八重桜」 個人蔵

高さ6.0~6.4cm 口径13.7~13.9cm 高台径5.8cm






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3、小貫入 銘「楽天」 畠山記念館蔵 

高さ6.2cm 口径13.4~13.6cm 高台径5.2cm




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4、小貫入 銘「雄蔵山」(おぐらやま) 藤田美術館蔵

高さ5.9~6.1cm 口径13.3cm 高台径4.8cm




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5、小貫入 銘「東大寺」 逸翁美術館蔵



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6、小貫入 銘「男山」 益田鈍翁伝来 個人蔵

高さ5.8cm 口径13.5cm 高台径5.0cm




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井戸脇 銘「長崎」 長崎久太夫昌斎伝来 湯木美術館蔵

高さ6.0cm 口径13.4cm 高台径5.6cm


最後は一椀しか見つかりませんでしたが井戸脇茶碗を挙げます。井戸脇は「井戸」の「脇」、つまり井戸茶碗ではないが、似ているので井戸に準ずる茶碗と呼んでいるもの、という意味です。井戸茶碗と特に違うのは造りが井戸よりしっかりしていない点でありまあす。上の「長崎」を見てもわかるように、厚みがなく脆いのですぐに割れてしまいます。有名なものがいくつかあるようですがまだ見つかっておらず探索中です。


小井戸は合わせて今のところ38椀見つかりました。次回は青井戸茶碗編をおおくりします。