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光悦や光琳がいっぱい。


東京・高輪の畠山記念館では開館50周年の締めくくりとして館蔵の琳派(私は宗達光琳流と呼んでいます)作品を一挙に展示しています。私はもう10回くらい畠山記念館は訪れていますが、こんなに宗達光琳流の作品を所蔵していたのかと此の度は驚いてしまいました。

畠山記念館は都内有数の茶道具専門美術館として知られています。しかし茶道具のみならず絵画、工芸等でも多くの優品を所蔵しています。これらはすべて創設者である数寄者の畠山即翁の数寄眼によってえらばれたもの。その蔵品の質の高さからも即翁のお目の高さがうかがえます。



今回の展覧会の主題である宗達光琳流、この流派は実に一風変わった画脈です。

狩野派や土佐派のように絵画の世界では、派閥や画壇が形成されその中で独自の画法が決まっており、画家はそのどれかに属するのがふつうです。しかし宗達光琳流の面白いところはそういった派閥や画壇ができず、先人の作品を模倣して画風を手に入れるという手法でもって様式の再生産が何度も行われてきたという点です。「風神雷神図」「松島図」「波濤図」といった作品は繰り返し模写されていて、一種の宗達光琳流の手法獲得のための通過儀礼と言えるかもしれません。



宗達光琳流の手法、それは「装飾化」という技法が最もふさわしいでしょう。現実の草花などの形を単純化させる、これによって見るものに大きな印象を与えることができるのです。宗達光琳流ではこの装飾化を極限まで推し進めることで、背景までもが金箔銀箔の使用によって単純化し、一種の「幾何学的」な世界が出来上がります。

たとえば尾形光琳の代表作、「紅白梅図屏風」。川の流れを見てみると現実の川にはありえないほど曲線的で、金の筋でもって流れが表されています。阿吽の紅白梅もまたちょっと本物に似せているように見えて、細かな枝の張り方や花の描かれ方は単純化されています。また鈴木其一の「朝顔図」というものがありますが、こちらだと朝顔が現実ではありえないほど連続的に描かれていて非常に幾何学的な感じがします。



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まずは茶道具から。

本阿弥光悦の代表作の一つ、赤楽茶碗「雪峯」です。正面の大きなヒビは「火割れ」といい、窯中で焼ける間に出来たもの。特に楽焼は脆い焼き物なのですぐに破損してしまいます。しかし光悦はこの火割れを逆手にとって金で補修することで大きな見どころをこの茶碗に加えました。

この茶碗を見て思うこと、それは「丸い」ということです。このような見た目の丸い茶碗というのは光悦くらいしか見当たりません。ここには宗達光琳流の美意識が強く表れています。つまり手捻りや轆轤目といったものを単純化し、曲線に変えてしまっているのです。光悦は焼き物に関しては全くの素人でしたが、現代ではその尖鋭性、美術品としての完成度の高さから同時代の陶工の作品よりはるかに高い評価を得ています。





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結鉾香合 尾形乾山作

こちらは尾形光琳の弟で陶工として活躍した乾山の香合。乾山もやはり兄と同じく宗達光琳流に加えられています。乾山は一見精密さを欠いているように見える絵付けに特に味があります。少し前に活躍した陶工・野々村仁清は絵付けでは繊細で華やかな世界を作り出しているのに比べると乾山の絵は少し荒っぽくみえます。しかしそこが逆に乾山の良さ。上の白梅の絵を見ても仁清とは違う単純化された意匠が見られます。




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色絵藤透鉢 尾形乾山作

こちらのほうが宗達光琳流っぽい絵付けになっている藤の透かし鉢。藤の花の形や葉っぱがなんとも面白い。乾山は向付や鉢など懐石道具と相性がとってもいいようです。ただやはり「用」より「美」の方が上回っており、その点鑑賞のほうが適するのではと思います。



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色絵福寿紋鉢 尾形乾山作

一度見たら忘れない鮮烈な印象の手鉢。間抜けた菊紋や福寿に蝙蝠の紋に比して全体としてはなぜかとっても味わいがあるのが不思議でたまりません。色の濃淡にムラがある釉薬は織部焼を思わせます。乾山の絵における究極的な単純化は何か緊張感のほどけた、しかし味わいのある作品を生み出しています。これがまた銹絵だと大分印象が変わるので面白いです。

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銹絵染付火入 尾形乾山作

乾山の真骨頂、銹絵です。色絵と比べるとその色合いは実に渋く、器らしい渋みにあふれています。六角形の煙草盆に入れるための火入れには白梅が描かれています。この梅の枝の直線的な表現はあの光悦の国宝茶碗「不二山」の外見とも共通するものがあります。



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共筒茶杓 尾形光琳作

茶杓もあります。

茶杓というのは本人のひととなりを見るという点ではこれ以上ない良き道具です。光琳の茶杓は一見利休風の地味な作りに見えます。しかし櫂先の丸まった感じや非常に細身なところなど、通常の茶杓よりも色々と削り落としたような感じが見受けられます。






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躑躅図 尾形光琳筆

こちらは今回見られませんでしたが、これから後期展示で見られる躑躅図。重要文化財に指定されてもいます。光琳にしては珍しくだいぶ脱力して描いたようなおおらかな筆致です。この路線をやがて百年後の酒井抱一が発展させて洒脱な江戸の宗達光琳流を開花させます。

ツツジの描き方にはちょっと現実的なところもあり光琳らしくない気もします。ただ川・岩・ツツジを箱庭的に凝縮させる光琳の空間的美意識は全くもって見事であります。こうした卓越した光琳の空間表現は宗達光琳流においても大きな特徴として捉えられます。本展覧会にも出ている在原業平を題材とした光琳筆「禊図」でもこの空間美が活かされています。




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賤が屋の夕顔図 酒井抱一筆

上の躑躅図の雰囲気を良く発展させたのがこちらの酒井抱一。抱一の筆致は多くが力を抜いて描いたような垢抜けたものばかり。藁ぶき屋根と夕顔の棚が描かれています。抱一は宗達光琳流でも独自の美意識、つまり花鳥風月を題材にした垢抜けた絵を描いており、彼の半分は宗達光琳流、もう半分は抱一流とでも考えてよいくらいかもしれません。




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夕顔棚納涼図屏風 久隅守景筆 東京国立博物館蔵

抱一がおそらく上の絵を描いたときに意識していたと思われるのが江戸初期に金沢で風俗画を描いて有名になった久隅守景のこちらの屏風。夕顔棚の下で佇む家族(子どもは前妻の子で右の女性は後妻かも)を描いていて、守景の理想の家族像が描かれているように見えます。抱一はこの絵を意識したのか、敢えて夕顔棚の下の一家を描かずに夕顔の花だけを描いています。主役が不在の絵、抱一のニヤリとする顔が浮かんできそうです。




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月波草花図

抱一お得意の花と風月を描いた作品。左・中央・右の構成的な均衡が見事に取れており、どれもしんみりとした風情が伝わってきます。左幅は花菖蒲に河骨と夏花なのに対し右幅は桔梗、ススキと秋花となっています。とにかく花を描くのが好きだった抱一、さすがに取り合わせに関しては抜群のものがあります。抱一にしては珍しく暗さを湛えた絵であり、抱一の代表作「秋草図屏風」を思わせます。



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八橋図団扇 尾形光琳筆

扇の宗達、そして団扇の光琳。両者このように称されています。光琳の団扇は弟の乾山の絵付けとちょっと似たところがあり、かなり単純化された、さらっとした描かれ方がされています。屏風を描いているときの光琳とはだいぶ印象が違う感じがします。しかしこれが非常に洒脱な風情をもっていてとってもいいのです。上の半ば適当に描いたような橋の絵がよく見えてしまうのがなんだか不思議な感じ。花菖蒲のせでしょうか。



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向日葵図 鈴木其一筆

これぞ宗達光琳流、鈴木其一。酒井抱一の弟子でありながら、師匠とは異なった、より宗達光琳流らしい絵を多く残しています。

こちらの有名な向日葵図、向日葵がこちらを向くように直立しており、非常に均衡のとれた感じがします。しかしこんな向日葵が現実にあるわけではなく、やはりそこには宗達光琳流の作為が見いだせます。

また其一は力の抜けた筆致の酒井抱一とは異なり、どこまでも精密、繊細な構成美、色使いなのが特徴的です。この一本の向日葵を描くにしても葉っぱ一枚の色合いや形状、大輪の花びらの数やめしべなど、抱一じゃ絶対にやらなさそうなきめ細かいところまでを見事に描き切っています。その点其一は抱一を師としながらもより先人の俵屋宗達や尾形光琳の手法をよりよく学んだのかもしれません。



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白梅文様小袖貼付屏風 尾形光琳筆

今回は見られませんでしたが、後期展示で見られるのがちょっと珍しいこちらの屏風。光琳は着物の意匠も手掛けており、東京国立博物館には重要文化財の白綾地秋草模様小袖が所蔵されています。こちらの小袖も派手さは無いものの、いかにも光琳らしい洒脱にあふれた出来になっています。背景を単純化し、枝振りの美しさで魅せる、こういった高次元な御洒落はほかの着物の意匠じゃなかなか見られないでしょう。




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紅葵花蒔絵硯箱 尾形光琳作

最後はこちらの光琳作の硯箱。「紅葵」というのは絵柄から察するに花の赤いタチアオイのことだと思います。八重のタチアオイの花が単純化され愛くるしく表現されていて素晴らしいです。つぼみのものには螺鈿が用いられてもいます。


というわけで、見どころ満載の畠山記念館の琳派展でした。本展覧会は3月15日まで行われておりますのでどうぞ足をお運びください。





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おまけ。高輪の品川駅前の高台の上にある旧竹田宮邸も一緒に見てきました。赤坂離宮を設計した片山東熊らにより1911年に宮家のための建物として作られました。現在はホテルの結婚式場として用いられているそうです。例によってこの建築も微妙に左右非対称になっています。


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立派な車寄せ。




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こだわりを感じる屋根の装飾。






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こっちは反対側。ホテルの敷地になっています。以上未回収の高輪歴史物件でした。