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新たなる一日の誕生の瞬間を兼六園にて。

最近老人の症状としてよく夜中に目が覚める。老人というよりも老いた趣味の人と言うべき自分なのだが其ういう趣味の持ちたる結果として寝られない眠りが浅いという症状に直面しているのだろうか。今日も3時に目が覚めた。床に就いていても思考して止まずに次第に南の空が明けてせっかちな蝉たちが群青から紺碧に空色が変わるのを合図に騒ぎ始めて増々睡眠を妨げる。

せっかくまたしても坊舎の生活が如く早起きしてしまったので外を巡ってみてはどうかと思いつく。そういえば兼六園は随分早くから開いているらしい。行ってみたらどうか。あまり知られていないが開園前の兼六園はこの時期だと4時から7時までの間無料開放されている。夜明ごろの兼六園の風情は今まで知っていた日中の姿とはまた違ったものなのだろう。まだ日が市内に陽光を差す前に急ぎ自転車をこいで私は兼六園のほうへと向かった。






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まだ5時前の日の無い金沢は意外にも半袖では寒いほど。外では幾人か年配層が散歩に出たり掃除をしていたりとまだ寝ぼけ加減のこの町の静かな時間が流れていた。自宅からは南下して長町の武家屋敷を抜けて香林坊へと出る。用水路の流れる音こそ同じだが今一人の活気も無い通りはただ私だけを容れてその他は空虚な空気を醸し出していた。



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香林坊から広坂の交差点に至ると金沢城の本丸の石垣が目に入る。明けを待つ東の空は石垣の姿を隠して自らは期待の見えるがごとくに膨らむようにして段々明るくなっていた。



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鈍色の空を背景にした石川門。兼六園は今の時間だとすべての門が開いているわけではなく下方の蓮池門口から入っていくことになる。




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入ってみればまずは人気ない瓢池の様子。古の殿様も寡数でこの庭を周遊して眺めていたのであろうがそれが現在になっても出来るというのは大変贅沢なことだ。




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ヒメユズリハの元気な夕顔亭の風情。この瓢池付近は太陽の出る東側とは逆の坂下にあってよく伸びた松などの木が光をさえぎるため日が入るのは兼六園でも一番最後となる。




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なんだか人がいないと緑の濃密な香や其の色の妙を改めて美しいと知ることが出来る。この時間のもたらすゆとりこそ開園前ならではの贅沢だと思う。




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霞ヶ池のある台地に出るとちょうど日が差し込むところであった。単調な世界だったのが赤銅色を得て輝く日の出の景色はいつでもどこでも感動的だ。

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日が卯辰山から上ってくる。光を受けて町もまた輝きを得る。「眺望」を誇る兼六園ならではの美しい眺めである。




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柔らかな光に東方の医王山も目を覚ます。たおやかな山容のこの山の緑蒼く映えて霞む様は早朝の情景にふさわしい気がする。




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こうしている間にも日はぐんぐんと上へ。まだまだ一部にしか日の差し込んでいない兼六園にもどんどんと色が着いて来る。



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翠に木肌に少し赤を得た内橋亭付近。水面に映えるもう一つの景色もまた綺麗だ。






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霞ヶ池の対岸まで至ると卯辰山からの太陽を背にした樹木たちが丁度池面に映って鏡のようになる。これぞ朝一番限定の極上の景色だ。



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親不知付近は東からの日光を得て石が赤く染まっていた。



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太陽光は翠深い苔をも輝かせる。全ての物が生き生きした表情に変わるこの時間帯がなんだか不思議だ。



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兼六園随一の巨木たる根上りの松。いち早く日を浴びて知の賢者のような威厳を漂わせる。まるで此れそのものが今にも動き出そうとする巨神兵のごとき迫力を持っている。



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何気ない木陰の道までもが不断と異なっているように見えてしまう。




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池面の輝きが反射してゆらめく中島。豊富な緑がいつもと違う色合いを見せる。





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太陽を背にする七福神。日中よりはるかに増して神々しい。




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霞ヶ池対岸で豊かな緑の壁を作る松などから成る林。兼六園の歴史の重みを支える要素の一だ。




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傾いた日光で趣増して見える唐崎松。縦横無尽に松の生命力を尽くした姿が印象的だ。




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6時ごろ。明け方の興奮が一段落してだんだんと平常の落ち着きを取り戻していく兼六園の風景があった。全てを染めていた赤は空の青に取って代わられてしまうのだ。



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曲水の深い森のほうにもだんだんと光が入っていく。松林からの木洩れ日が苔を照らし長く伸びた松の陰がどこまでも伸びている。



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太陽が昇ってまたさっきと違う表情になった根上りの松。どこまでも濃いその影は松そのものの巨大さを示しているようだ。




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ヒマラヤ杉の如く天へと伸びる根上り松を白く輝く光が荘厳している。これほどの存在感を以て人の前に立つ松も珍しい。




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やっと日の入り込んだ曲水には様々な緑が共演して人工と自然の調和した美しさを醸し出している。霞ヶ池周辺の動的な景色とは好対照を成していて良いものだ。



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山崎山下から流れる用水にも光が差し込む。カエデの森となっているこの山にはことのほか優しい日が差し込んでいるように見えた。




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唐崎の松遠景。日を得てその巨大さが徐々に露わになってきた。




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濃い緑を映す七福神付近は最もお気に入りの場所だ。




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霞ヶ池絶景。まさに鏡写しの池である。



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お馴染みの琴柱灯篭からの景色にもいつもより池面のよく緑を映しているような気がする。





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再び下段の瓢池に戻ってみる。やはりまだ池に日は部分的にしか差し込んでいなかった。綺麗に太陽が顔を出すのは開園後七時過ぎになるであろう。



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最後に朝日受けて端正なる石川門のお姿。

早朝の兼六園。これはまさに金沢住まいの特権なのだと思う。四季に姿を変える兼六園なれど朝焼けに萌えるその姿を見るにまたこの名園の違った顔を見た思いがする。また眠れなかった折には新鮮な空気を吸うついでに朝一番の兼六園散歩を試してみようと思う。