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次に登る山はきっと確実だった。そうだ 白馬にしようと。

先日白山を登ってみて思ったことがある。こういう山は他にないだろうかと。白山のように華があって温泉があって高山植物がある。実は白山で見た高山植物の数々には圧倒されたが 思いのほか種類は豊富ではなく少々肩すかしなところはあった。それに温泉にも入れなかった。なんとも不完全燃焼だったのである。私を次に満足させてくれる山 それは順当にも白馬岳であった。

白馬 それは一つの商標であるといっていい。温泉 雪 高原 山 避暑地。こんな連想が浮かぶにとどまらない。白馬 その響き自体に夢や幻想にいざなう魔力がこもっているといっていい。ちょうどかっこいい男の子の名前を聞いてそのかっこいい御顔を連想してしまうかのごとく。其処は白い馬の駆け巡る天上の楽園のような場所かもしれない。なんにせよその言葉は口内に期待と言う名の甘味を染み渡らせるのだ。無論私も行ったことのない白馬の地について妄想張り巡らしていたことは言うまでもない。人間なんて安直そのものだ。きっと私を白馬に誘わせたのはそういう力だったんだと思う。

一つ心配なのは天気だった。白山に行った日曜はたまたま梅雨前線がお留守だったらしく隙見て登ることが出来た。再び猛威を振るう前線は山はおろか私の家から見える市内の丘めいた山すらも見えなくさせていた。梅雨はいつ終わるのかとまた天気予報とにらめっこの日々が続く。そして海の日の連休 これは不断の年ならば梅雨明けがそろそろ来てもおかしくない時候だ。この時になって再び前線は弱まってどこかに行ってしまう予報となった。これを見て即座に白馬行きを極めた。

日程は一泊二日。今年初の泊まりがけだ。白馬三山と呼ばれる山がある。白馬鑓ヶ岳 杓子岳 白馬岳の三つだ。山麓から見ると三山綺麗に並んで見える。私はこれを巡るのだ。そして宿泊には秘湯でたどり着くのに四時間以上もかかるという鑓温泉 ここに泊まる。温泉好きの私には垂涎物の名湯だ。実は少々日程は窮屈である。普通なら二泊三日にする行程だ。もし駄目だったら二日目には白馬岳の山荘に泊まれば良いとしておいた。





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朝7時過ぎに金沢を出立。相変わらず家の外から見た景色は雲ばかりだったが一向に構わない。明日さえ晴れればそれでよい。朝の上りの新幹線は人が少ない。乗るのは物見の客か私のような登山客ぐらいか。新幹線は糸魚川駅で降り此所から山間路線の大糸線へ。先々月の雨飾山登山で利用したばかりだ。路面は濡れている。小雨も降っている。これで白馬方面はもっと降っているだろうかと不安にもなる。

姫川なる谷川を上流へと鮭のごとく遡る。混凝土の貫かれた山河の湿った風情の中にエンジュの木々が気だるく揺れている。河は列車を綾の巻くがごとく蛇行しその色の無い水の色は空に似た風体の岩稜の陰へと消えていく。列車の人々は物見が半分以上 登山が一部 地元民も少しは居たかもしれない。私は途上唐松岳を目指す血色良い年配に声をかけられ談議に付き合わされる。ほとんど山自慢だ。彼と話していて思う。人間には噺上戸と聞き上手の二種類がいると。前者は自分語りに終始し相手への関心がない。一方後者の聞き上手というのは語りたがりの犠牲になる哀れな人種にも思える。情報は一方的にこちらに流れ 語りの慶びというものがいまいち薄い。私は年配から多少有益な話(白馬の蓮華温泉や八ヶ岳の本谷温泉について)を得た代わりに何か侵食されたような感覚へと至ったのだった。




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年配と話すうちに景色は開けて来 清風のやってきそうな高原めいた景色へと変わる。これが白馬だ。やはり白馬は土地自体が一線を画しているのだ。山 草原 広い空。小谷までの山間風情とは全く違う。私の目指す白馬岳は見えるだろうかと思って山を注視する。しかし巨大な迫りくるはずの山の軍勢は雲に隠され拝むことはできなかった。



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白馬駅に着き年配と別れる。私はタクシーを使って北西の山中へと向かう。目的地は白馬登山の拠点 猿倉だ。



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10:30

車は見る見るうちに山中へ。期待と不安が入り混じる中猿倉へと到着。猿倉荘には「見張り」がいて登山届を書かされる。軽率な登山者を除外するための措置だ。詰問されていもいないのに帰ってこられるかどうか心配になる。今日の行程は4時間半。目的地 鑓温泉までは日の傾くまでもなく到着できるだろう。そう考えては要らぬ邪念を振り払って出発する。



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歩き出して15分 車道から分岐して野趣あふれる道が姿を見せる。そのまま進めば白馬名物の大雪渓へと至るがこれは下りで用いる。上りはこの分岐から入って鑓温泉へと向かうのだ。

若者3人組が雪渓側から降りて来 分岐点で立ち止まっては言う。ここから登ったんだなぁ と。彼らは私が計画しているのと同じ道順を辿ったものと思われる。私も明日再びこの場に立ってそのような感慨を浮かべることだろうと想像しては分け入っていく。



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道は細く狭い。雨後の道らしく泥の巣食って足の置き場にほどほど困る。傾斜はそれほど無い。代わりに距離が長いのだ。




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惰性で出来たような沼地がいくつもある。所詮一夜仕込みなので干上がっているところが多い。しかし中にはまともなものもあるらしい。水芭蕉の巨大な葉がそれを教えてくれる。里芋じみたこの葉は清楚な雪解けの白花 ミズバショウとは似ても似つかぬほどに粗野だ。




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体力が足りない。すぐに気付いた。白山でもすぐに息が持たなくなったのだが今回はさらに深刻だ。持病うんぬんではない。今日は薬も飲んだのだ。汗は穴という穴をついて湧いてくる。荷は重く腰の辺に入れるべき力を奪ってしまう。上り始めて30分。これは大丈夫だろうかと自分で科した地獄行を呪う。





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ウツボグサ

遠目にも鮮やかな紫紺はよく映える。靫(うつぼ)の芯を持つウツボグサだ。美しくも切ない色合いの花は早くも地に落ちてその最上の時間を終わらせようとしている。雑草に負けぬように懸命に茎を伸ばす様はなんともいじらしい。





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オタカラコウ

大地の栄養を吸ってどこまでも高く大きくなる蕗。それがオタカラコウだ。ツワブキにもやたらと大きいものはあるがこちらはその山に咲く版といったところか。以前これをマルバダケブキと間違えて紹介していたので訂正したい。よくというほどでもないが両者よく似ている。





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シモツケソウ(白花)


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キヌガサソウ

隠者のように草陰にて静かに私を見る花があった。無我夢中で歩を進める私も彼の姿を見ては止まらざるを得ない。扶桑第一婦人の花 キヌガサソウである。私はすでに白山でキヌガサソウを見ている。それに比すると明らかに白馬のキヌガサソウは小さい。そして葉と花弁の数が少ない。白山はそれぞれ10枚 白馬は7枚だ。無論両者は親戚同士なのであるがこの違いというのは大きい。ここに白馬と白山 互いの山の気質の違いが表れているのだ。




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シモツケソウ(赤花)

赤花のシモツケソウは私にとって思い出深い。初めての本格的登山というべき谷川岳西黒尾根の岩稜帯を上っていたとき。折れ掛けた私の意志に添え枝してくれたのが岩間に咲く可憐なシモツケソウたちであった。以来私はこの花を慕って止まないのだ。




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ニッコウキスゲ



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キンコウカ



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ミヤマトウキ

独り静かに眼下眺めるミヤマトウキのたたずまい。誰にも遇わずひたすら道を往く自分の姿に重ねてみたくもなる。




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クルマユリ






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イワオウギ



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クガイソウ





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雪渓を渡りさらに上へ進むと遣り水のような流れが現れた。触ると熱い。温泉である。周りには温泉熱が育んだ苔たちが繁茂している。



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15:10

4時間半を経て鑓温泉へと到着した。安堵と温泉への期待が胸を突いて流れる。




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小屋は閑散としていた。本年度の営業を開始したのがつい先日だったためなのだろう。私は二段になった室の上の十畳ほどの空間を独りで使うことが出来た。尤も繁多な時期には其所に二三十人が寝ることになるらしい。恐るべしだ。





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さっそく名物露天風呂へと繰り出す。雲上の温泉とも称される鑓温泉は開放感と展望が売りだ。温泉多しと言えども鑓温泉のこの登山を経た者にしか味わえない風情は他に分け与えることが出来ない。






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温泉は蒼い。そして湯の花が多く泳いでいる。泉質は硫黄泉だ。不思議なことに非火山であるはずの白馬に火山でしか味わえないはずの硫黄泉が湧く。きっと立山火山の辺から分け与えられた恵みなのだろう。





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日は背にする岩稜へと没する。その頃にはあれだけ厚く覆っていた霧も払われて白馬の空が取り戻されつつあった。明日が期待できそうだ。

「流し」の一日目とはいえ非道く汗水垂らしたものだ。不純なものはいで湯に洗われて後には爽快な疲れが残る。万事明日に投げ打って私は7時ごろ眠りにつくのであった。




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4:10

翌日。雲は払われ一切は整う。そして寒い。侘しがりの方々を見渡して目を細めるような寒さだ。私は布団を蹴っては外へと出でる。鑓温泉に来たならば此れをやらずば帰れない。露天風呂から望むご来光を見るのだ。


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4:30

蒼寒い景色は一変する。遠く山々の間から火打石の如く燃えた日の玉が出る。露天風呂に見る日の出とはこうも良いものか。まさに「楽」の一言だ。全てが心地よく 豊かで そして安らかだ。赤光を映す湯気が其れを物語っていた。



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完璧なる日の出の訪れ。私はこのような山での欠けたるところの無いご来光を初めて拝むことが出来た。



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大いなる日輪は温泉を黄金色に染める。誰もが憧れて止まぬ光景が今此所に現出している。これが山の温泉。山の極上の贅沢なのだ。



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5:30

最高のいで湯に後ろ髪引かれながらも温泉を後にする。今日は9時間を超える長丁場がこれから待っている。天気は良い。申し分ない。だが長野側からは水蒸気が駆け上がって霧を作っている。早い方が良い景色を見られるには違いないのだ。

展望は良いがきつい傾斜が続く。開始15分で再び大粒の汗を流しだし息荒くする。乗越(主稜線に出る場所)まではあと3時間もある。





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ヨツバシオガマ






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6:40

上り始めて一時間 展望が開け氷河地形のような山を背にした台地へと出る。此所は秘められたお花畑がある。その真ん中を切って歩いては眼上の頂へ行くのだ。




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チングルマ

白銀の雪そのもののように白く可憐なるチングルマ。皆太陽の方向に向いては耐えることのない笑みを浮かべているかのようだ。この一帯はチングルマの群落で埋め尽くされている。誰もが冒すべからざる秘密の楽園である。



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ハクサンコザクラ

雪の去った台地に顔出しては染まる高原の桜がある。弱弱しく風に揺られながらも心惹かれずにはいられないハクサンコザクラは高山植物の主役であり平地の桜にも劣らぬほど可憐だ。




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アオノツガザクラ






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チングルマ





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ミヤマキンポウゲ

朗らかな黄色。其れがおちこちで揺らめいては私を見つめる。ミヤマキンポウゲである。すらりと立った此の花はこの高原に雑草然として咲いている。だが此の花の純心たる朗らかさの内に秘めた貴婦人ぶりにも気づかぬわけにはいかぬのだ。



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イワカガミ

其の葉は雨中の如く光(てか)っている。彼の花は手鏡の如くそれを見ては己惚れたがごとくうつむいている。イワカガミである。限られた善行者のみが転生できるこの天上の庭で彼独りが物憂げな思索者として佇んでいるのだった。




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ハクサンイチゲ






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ナナカマド

往く手を阻むがごとく大手をいっぱいに広げたナナカマドにはなんとも辟易させられるものがある。彼の白花は妨げられた者たちの気持ちなどつゆ知らずに咲いている。大あぐらにも恥じぬ巨大な塊はこの庭のあちこちに居るのだ。




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一面に咲く白花と黄花の小谷を見出す。ミヤマキンポウゲとハクサンイチゲの群落だろう。敷き詰められた花々は庭の短い夏を今まさに謳歌している。




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この庭ともお別れが近づいてきた。景色は上へと移行して最初の白馬三山である鑓ヶ岳の山容がだんだん望めるようになってきた。雄大な景色である。



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何者か鳥の声を聴く。「クォエ… クォエ…」と静かな警戒を含んだ鳴き声。そして岩上に姿を現してくる。雌の雷鳥である。静謐の中に緊張感を含んだその威厳ある立ち姿は神への近しさを示しているかのようだった。もうしかしたら昨日聞いた奇妙な叫び声はこの雷鳥のものだったかもしれない。






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ウサギギク

太陽に近しい陽気な黄花を見出す。ウサギギクだ。葉っぱだけでなく しおらしくも落ちた花弁の縁にも何か兎を連想させる物を持っている。




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コマクサ

女王の権威はいつでもどこでも絶対だ。コマクサはまさに高山植物の玉座にある花。奇抜な馬の顔した花弁は其の気高い精神の証なのである。誰もが近寄らぬ岩稜に独り勢力を占めるその様はまさに女王の風格を証拠だてている。



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上を見やればコマクサの群落が。天女の唇の緋色を落としたがごときその色合いは遠目からでも目立っている。


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7:50

長い登りだった。乗越へと這い上ってきたのである。そして開ける富山側の展望が。今日は日本海のほうまで見通すことが出来る。






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北方にはこれから目指す鑓ヶ岳の巻き貝要塞のような塊が。岩ばかりの禿山だ。これはあなどれない。





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ミヤマシオガマ

天の造形たるヨツバシオガマがこんなにも背を低くして踏み潰してしまいそうなほどに小さい。ミヤマシオガマは代わりに過酷な風雨にも耐えられるほどによく出来ている。




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ウルップソウ

地に根差して張る其の葉は巨大で艶やかである。疑り深く出した花は慎重に下から上へと花をつけている。ウルップソウはよほど高級な花だ。まず其処いらの山では見かけない。白馬と八ヶ岳か後は北海道でしか咲かないほど。此の花が氷河期から浮島の如く取り残され今に至ってしまったことからも彼の奇妙で扶桑には似つかわしくない面持ちも解することが出来るだろう。



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雲が私に遅れて斜面を駆け上がってくる。先ほどまでの展望はかりそめの物であったようだ。








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鑓ヶ岳を登るにつれて展望はさらに開ける。黒部川を挟んで向かい側 本家立山連峰と剱岳が姿を現した。秀麗な山々は今雲のほとんどなくして夏の広い青空の下にいる。




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南側に目をやる。後立山の稜線の向こうに槍ヶ岳が見えている。この天を突く山はどこから見ても同じ形でいるのが不思議だ。





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はるか向こう 天空に連なるのは赤石山脈だろう。これほど遠い山々を展望できるところに高所の不思議がある。




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鑓ヶ岳の白き山塊を踏みしめて山頂はあともう少し。



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8:30

2903mの山頂に到着だ。此所で残る白馬三山を眺めつつ少し休憩をとる。足はまだまだ歩けそうだ。状態はまあまあ良い。




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鑓から見渡すと三つの山が展望できる。右から杓子岳 白馬岳 旭岳だ。手に取るように見渡せるこれからの道のりは短くも長くも見える。


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奇妙な形をした杓子岳の長野側の稜線はかなり険しく切れ込んでいる。富山側が枕のように平たいのとは全く異なっている。この山の少々醜い非対称性は一方で恐れを抱かせるほどの急峻さを提供してもいるのだ。



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今日は素晴らしい眺望。富士山の姿がはるか向こうにとらえられるのだ。その隣の山脈は八ヶ岳だろう。






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ガレた斜面を下りてゆく。其処は高山植物たちのいる場所だ。この一見不毛そうなところに青 赤 黄 白 紫 様々な潤沢なる色が輝いている。誰かの秘密の宝箱をひっくり返したかのよう。






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ミヤマシオガマ

本当に小さな花だ。踏み潰してしまいかねない。繊細な葉に繊細な花。はるか彼方の山の上でだけ咲いている。




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ウルップソウ

青い毛むくじゃらのような形をした花だ。全く洋花みたいなのがこの高所に咲いている。ウルップソウ。雅な名前はあまり似合わなさそうだ。これでいい。




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ハクサンイチゲ

白 というよりは其処に灰色が加わったような色をしている。本当の雪の色なのかもしれない。涼しげで気持ちの良い風を運んできてくれる。



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イワベンケイ






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イワオウギ

軒列の花弁が清風を吹き込んでくれるイワオウギの花。高嶺に咲く豆の花だ。



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シコタンソウ

ただのわちゃわちゃした花ではない。黄緑色をしたおしべとぴんと張っためしべが美しい。その咲き乱れる様は春の雪のようだ。小さいとはいえどもシコタンソウの花は白馬の主稜線に多く咲いているので是非愛でたい。




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鑓ヶ岳より100米ほど下っただろうか。途中ガレ石のせいで股関節を思いきり痛めてしまいびっこで歩く。花々は美しく空は晴れているのにこの痛みはすべて台無しにするかのようだ。



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チョウノスケソウ

花はチングルマに似るが別の種類の花だ。チョウノスケソウは岩に張り付き桜草のようなギザギザした葉っぱをつけるのが特徴である。今にも消え入りそうな儚い花に見えた。




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ミヤマオダマキ

岩間によく見慣れた花の姿を見出す。ミヤマオダマキだ。ようやく野生を見ることが出来た。その姿は確かに私の知っているミヤマオダマキに似ている。ただ葉が少し茶色みがかっていたり茎がかなり長かったりとなんとも野趣ある様を見せてくれる。



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ハクサンイチゲ

緩やかな坂に咲き乱れるハクサンイチゲ。私の歩むその左手に途切れることのなさそうな群落をつくっていた。




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ミヤマムラサキ

此の花を見たかった。ミヤマムラサキだ。ムラサキという花は万葉の昔から人々に親しまれかつてはよく見ることが出来たそうだ。今では絶滅がささやかれるほどに減ってしまったそのムラサキの高山で生息している親類がこのミヤマムラサキだ。美しい縹色の花弁は宝石のように輝いていて見る人を惹きつける。かよわい花であり見ることが出来たのは一か所だけ。それでも嬉しい出会いであった。



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ミヤマオダマキ

もうその最も良い時期を過ぎてしまったオダマキだが未だ頑張って花をつけている。園芸種のオダマキは何か怠惰な感じを漂わせていたが此方では生き残りに必死なのだろう。とても逞しく見えた。


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ミヤマアズマギク

洋花の菊みたいだ。浅い紅色をした花弁は端の方で咲いていてもよく目立つ。なんとなく紫苑のような秋の香りを感じる。



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花畑を過ぎては杓子岳の安眠椅子の背もたれみたいな山容が大きくなってきた。




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ハクサンチドリ

百に千に羽広げたハクサンチドリはまだ咲きはじめ。雄大な景色を背景にしたい此の花は白山よりも白馬で咲く方が似合っている。




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オヤマノエンドウ(白花)

清楚な白花 豆の花。それこそエンジュとか藤を荷に詰めて高山に送り込んだらそのうちオヤマノエンドウができるのではないかと信じている。



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コマクサ





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行く先の白馬岳は下から上がってくる霧を素手で受け止めている。そのおかげで富山側は見事に晴れている。此所は天気の分水嶺でもあるわけだ。



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下ってみると杓子岳が今度は寝釈迦のように見える。




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せっかく下ってもまた上り。縦走ゆえ致し方なし。




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チシマギキョウ

岩間に生きるたくましい花を見出す。チシマギキョウという。ホタルブクロにも似た釣鐘の袋花を咲かせている。地味だけども厳しさの中に生きるしたたかさを教えてくれる。



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緩やかな上りの間にはお花畑。


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タカネヤハズハハコ

ヤマハハコの皮膚を因幡の白兎が如く全部剥いでしまったかのような奇怪な見た目のタカネヤハズハハコ。それにしても「ヤハズ」とはよく言ったもの。まさにその姿は矢筈に弓をかけた時の形そのものだ。



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クロユリ

たった一輪で咲く不吉の花。それがなんとなくクロユリについての先入観だったから此所であったときはその想像に違わなかった。しかしこの花は死の予言を知っているわけでもなくただ黒いだけだ。実のところは出会えてうれしいに違いない。



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花畑からはこれから登る白馬岳の頂上部まで見上げることが出来る。



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頑張って登って白馬山荘。この最後の坂がきつい。




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100年を超える歴史を誇る白馬山荘に着く。山荘はなんとなく虚ろだ。この時間帯だと暇をもてあましているだろう。もし疲れていたら此所に泊まることも考えていたがたぶんその必要はないみたいだ。



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一服入れてから最後の登りへ。山荘から白馬岳山頂は目と鼻の先だ。




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11:25

白馬山頂に着く。人は誰もいない。繁多期には此所が人で埋め尽くされるというのに。湧き上がる雲のせいで長野側の展望はなし。



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鑓ヶ岳で見た時よりもはるかに展望は望めなくなってしまいようやく杓子や旭岳が見える程度に過ぎない。全くささやかに過ぎる達成感だ。ここで昼食をとってから下りを開始する。私は15時5分の帰りのバスに間に合わせるために3時間で下り切らないといけない。





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下りを開始。今度は頂上山荘横から東へ下り名物 大雪渓を通って最初にやってきた猿倉まで下山する形だ。




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下りでもお花畑は奇麗。ハクサンイチゲとミヤマキンポウゲだ。上方にはぼんやりと剱岳の姿が。




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雪解けの水が作り出す沢を下る。続々と登ってくる人ばかりで下るのは私ばかり。


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ミヤマトウキやオタカラコウからなる花畑。青空に映えて一層綺麗だ。







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杓子岳 鑓ヶ岳とはこれでおさらば。どんどんと深い霧の中へと私は入っていく。




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ハクサンフウロ

幼児のような天心を含んだフウロ花は私にとって大いなる癒しだ。紫色の花弁もまた涼しげで好きになる。





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13:00

下り始めて1時間半 大雪渓が姿を現す。尻が見えないほど巨大さだ。




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まともなアイゼンすらつけずに雪渓を下る。雪渓特有の涼しい風を期待したが全く吹いてくれず。むしろ冷や汗と太陽光で余計に暑い。この淡々とした下りは登山というよりも冥府の底への遠足みたいに苦痛だ。




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雪渓はこの時期にしてはかなり荒れていた。ひびがあちこちに入り道の真ん中に巨大な転び石が遮る。冷や冷や物の雪渓歩きは梯子登り同様私にとっては難関なのだ。



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14:20

白馬尻小屋に着く。休んでいる暇などない。乗合に間に合わせるために此所も通過していく。上空ではちょうど白馬のそれぞれの小屋への空輸が行われているところでけっこう騒がしい。




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14:55

懐かしの猿倉へと到着。乗合にはぎりぎり間に合う。下りは結局駆け足ばかりでほとんど記憶に残らない。うだる暑さのおんぼろ乗合では泥のごとくまどろむ。


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八方温泉に入る時間もなく白馬駅から大糸線へ。車窓から見える白馬はやはり隠れたままであった。私は乗り合わせた観光客に好奇の眼で見られる。一方の私も白馬から乗り合わせた白人一家や奇麗な鉄道好きの老夫婦たちを観察してはなんとなく現実へと順応していった。



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それから一時間後。新幹線の車窓をぼんやり眺めている。大きな雲が見える。夏の雲か。私の大きな疲れを具現化したような雲だ。気持ちが良い。雲が無ければ白馬も新幹線から見えるのだが。まあまた登れば良い。温泉でも入ろう。雲は高速移動する車窓から取り残されやがて隅から落ちていった。