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萩(玉川町)

一日遅れました。処暑です。暑い昼を越して薄闇になると秋虫が鳴いて少し涼しい風が入ってきます。

おや、誰でしょう。蝉です。事を全てなし終えた力無い蝉が外で網戸を叩いてのたうち回っています。私には何もすることが出来ません。数分おきにねじを巻くような音で暴れまわっています。明日には死すべき彼らほど命の儚さを教えてくれるものはありません。願わくばいくらでも死者たちのために塚を築いて、駆け抜けた一生に対して敬い心を示したいのであります。

処暑、と言えば萩でしょうか。それとも早まってきた夕暮れか、薄野か。萩は盛夏より咲いています。少しづつとはいえ紫に白に可憐なたたずまいで枝垂れています。この時期でしょうか。まだらだった色合いに密度が増して、やっと萩が咲いたとはっきり言えるようになるのは。



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トロロアオイ(芳斎)

浜辺は随分遠くにあります。海には海の花があります。ハマボウと言う花は横須賀の方に行った時の、真夏の海岸にたくさん咲いていました。温暖を好みます。私たちが暑さを嘆けばハマボウは喜んでいます。何色といったらよいのでしょうか。黄色と肌色と白を混ぜたような色合いの花。先刻家の近くの鉢植えで見かけたのはそのハマボウに似た花でトロロアオイと言います。小さな花です。ムクゲによく似て多産なところがあります。見ていたら浜の香りがしてきました。





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ヤブラン(武蔵町)

秋の花が咲いていました。日陰になった植え込みにこの時期らしくない涼しげな紫色の花が。ヤブランというのはこんなに早くから咲くものだとは知りもしませんでした。よく此の花を祖母が生けていたのを思い出します。とてもいい花です。



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芙蓉(武蔵町)

よく肌の焼けた可愛らしい女の子が自転車に乗って走り去っていきました。図書館にでも行くのでしょう。彼女の笑顔が撮ってみたいです。できればこの芙蓉と一緒に撮ってあげたいのです。彼女は芙蓉など知らないでしょう。ちょっと雑草みたいで自分より背の高いただの草の塊だと思うかもしれません。彼女は花の美しさを知る時吃驚するでしょう。人のことは移ろいやすいけども花の姿かたちは毎年律儀にも同じなのですから。



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椿の実(玉川町)

図書館に来たらやっぱりあの女の子がいました。夢中で走って行って館内に消えました。図書館の近世資料館のほうは象徴的なレンガ造りです。昔此所には工場があって、建物はその名残でした。建物の傍には椿の木がありました。ちょうど実が赤くなって熟れようとしています。夏らしい景色だと思います。





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空の気分(玉川町)

一昨日は臥所にいたらどどどどっと雨が降ってきました。爆音になりました。トタン屋根や瓦屋根があまりの雨粒の多さに聞いたことも無い音を立てます。ちょっと恐ろしくなりました。

今日の空を見ていても雨が降りそうだったり、日差しが強かったりと、一概にどうと言えるものではありません。正直傘は持っていたほうが安心です。こんなに空模様を読めないことがあるのかと、今更ながら驚いている次第であります。





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用水路(長町)

美しい景色。美しい情景。それは光と影で作り出されるものではないでしょうか。ふとそう思いました。村上春樹の大好きなめくら柳が川底に大きな影を作ります。そしてよく枝垂れたものが動きますので、水面が光っているように見えます。たったそれだけなのに美しいと思えます。やっぱり私は勾引(かどか)わされているのですね。陰影というものに。



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芒(長町)

薄の穂先がはっきりとしてきました。目で見てわかる秋の到来であります。あなたは薄が好きですか。私は悲しいながら好きではありません。傍にいるだけで、失礼、苦沙弥が出てしまうのです。もう止まりません。お恥ずかしいものであります。風雅を体が拒絶しているのでしょうか。




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古家(長町)

こんな家に、私は住んでみたいと思います。いい具合にひびが入って疲れた土塀に黒塗りの門。たまりません。切妻になったあづまだちの主屋の二階には硝子が張られ、内装は改められているようです。そして従者のように隣に控える漆喰の美しい蔵。構成的に完璧、絵に描いたようであります。

理想の暮らしとはこうです。八重山の上布を纏って窓際の籐椅子にもたれて外のこぶだらけの大樹を見ています。周りには朝鮮民具や佐渡舟箪笥、切り絵行灯が囲み、床の間には木喰仏の複製が飾られている。宗悦好みの洋卓に置かれた小鹿田焼きの湯のみを手に取り、白いもやの向かうに武家屋敷の瓦屋根が見えています。ふと下を見やれば目白のつがいがひめしゃらの木に集ってちいちい、と鳴いている。時を忘れて小禽を観察しているうちに日は暮れ、板の間から畳の間へと伸びてきた日の影が時間を報せます。尿意を感じるとともにざぶざぶと湯を被ってみたくなった。ああ、今日も城端を随分散歩して背に汗を溜めたものだなぁ。ぽんぽん、ぽんと木の音を煤を吸った足袋で出しながら下階へと降りていきました。

私の幻燈はこれでおしまいであります。



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痩せ猫(長土塀)

私の家の辺には迷路のような路地が展開されています。区画整理を逃れたからです。全くもって何処に至るのか分らない路地を走っているとたまに猫に当たります。猫は入り組んだ住宅地が好きです。住みよいようであります。私も此所は住んでいて良いところだと思います。猫と同感です。


次の二十四節季は9月7日。白露です。