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上野の東京国立博物館で開催中、空前絶後の「茶の湯」展に行ってきました。


茶道をやっている人なら絶対行くべきこの展覧会。間違いなく数寄心に火が付きます。

ただ展示されている茶道具の数が多すぎてどれを見たらいいのかと途方に暮れるかもしれません。

どれが一番見たい茶道具なのか、あらかじめ予習してから行ったほうが良いでしょう。

展示期間の決まっている茶道具もいくつかあるので気を付けておいてください。


今回はおすすめの、というかこの展覧会でも特に著名な茶道具を取り上げて一言二言添えておきたいと思います。

これから行かれる方は是非参考にしてみてください。



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1 曜変天目 稲葉天目 国宝 静嘉堂文庫美術館蔵 (展示期間:4月11日~5月7日)

世界に三つ(四つトモ)しかないと言われる曜変天目茶碗。銀河系を覗き込むかのような、茶碗内側の景色は感動的です。

無論茶碗というのはお茶を飲むための器でありますが、この器は扱うには恐れ多い、むしろ純粋な鑑賞物であるとさえ言えるでしょう。なんといっても現代の技術でもこの曜変は再現できないほどに謎が深いのです。

足利将軍家が愛で、岩崎家で重宝されたという稲葉天目。歴史上の巨人たちが凝視した大宇宙を是非体感してみてください。





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2 油滴天目 国宝 大阪市立東洋陶磁美術館蔵 (全期間展示)

日本人の美意識が見出した油滴天目。曜変天目同様珍しい景色が足利将軍家に重宝されました。

私はこの降り積もる豪雪の様な文様が気に入っています。中華的な美意識からは退けられたでしょうが、艶光りのする美しい景色は鑑賞し甲斐があります。



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4 観音猿鶴図 牧谿筆 国宝 大徳寺蔵 (展示期間:4月11日~5月7日)

大徳寺の所蔵する逸品です。

牧谿はなんといっても日本で最も有名な中国の画僧です。もやがかったような、枯淡のある筆遣いが日本的な美意識には受け、彼の作品は招来されてもてはやされました。一番有名なのは瀟湘八景図でありますが、この観音猿鶴の三福対もまた長谷川等伯が強い刺激を受けるなど、日本の美術史にも名を刻む名品であります。



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25 紅白芙蓉図 国宝 李迪筆 東京国立博物館蔵 (展示期間:5月23日~6月4日)

唐物絵画は本展覧会にも多く展示されています。ただ絹本なので劣化が激しく、黒焦げてしまって何が描いているのか分らなくなっているものも少なくありません。

しかしその中でこちらの紅白芙蓉図は本来の瑞々しい色合いが残っており、鑑賞に堪える一品だと思います。夏の日の夕刻に見た酔芙蓉の紅くなっていく花弁は今も昔も変わらないんだなぁとしみじみ思わせてくれますね。




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36 青磁鳳凰耳付花入 重文 アンカンシエール美術財団蔵 (全期間展示)


唐物道具は均整が命です。

形に捻りが無いのでちょっと退屈してしまうかもしれませんが、けっこう和物茶陶は唐物に影響を受けて真似を試みたりしているので、その大元が学べるとなると勉強になります。この青磁の耳付花入なども、備前や伊賀の花入に多大な影響を与えているのです。



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38 青磁輪花茶碗 銘「馬蝗絆」 東京国立博物館蔵 (全期間展示)

唐物の均整の中に生じる、日本的な美意識。つまりそれは「欠損を愉しむ」。

足利将軍がこの欠けてしまった茶碗を中国に修繕に出させたところ、「直せない」からとかすがいをつけて返却されたという逸話があります。

私はなぜかこのひびとかすがいのある景色が無いよりも落ち着く気がしますね。其処が茶の湯的な美意識の不思議さです。




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63 肩衝茶入 銘「初花」 重文 德川記念財団蔵 (展示期間:4月11日~4月23日)

唐物茶入の頂点、初花をようやくこの目で見てきました。

流れる釉薬の見せる存在感、間違いなく他を圧倒しています。そして堂々たる肩衝の体躯。王者の名にふさわしい茶入でありました。





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69 唐物茶壺 銘「松花」 重文 德川美術館蔵 (展示期間:4月11日~5月7日)

茶壺は織田信長の時代ごろまでは茶道具でも最も格の高いものとされていました。ルソンの茶壺などは殊に有名ですね。ただ殆どは中国由来の茶壺でした。

茶壺は大きいだけに戦乱で失われたものも多く、あまり数が残っていません。たぶんその中で一番有名なのはこの松花の茶壺でしょう。輝くような黄金色の釉薬は大変気品があります。そして土見せのところに流れる釉薬の様子も鑑賞するには面白いですね。




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71 黄天目 珠光天目 永青文庫蔵 (全期間展示)

いわゆる灰被(はいかつぎ)天目は茶の湯の元祖、村田珠光の時代には侘びの美意識と合致していることからけっこうもてはやされました。正直今となっては天目だし、色が地味すぎるので扱いに困るところではありますが。

あまり目にする機会はありませんが、侘茶の発展を知る上では外せない一品であります。




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77 備前水指 銘「青海」 重文 德川美術館蔵 (全期間展示)

千利休の師、竹野紹鴎が所持したとされる備前水指です。

備前は土器のようなちょっと風変わりな造形のものが多いのですが、こちらの水指は侘茶の精神に合うような、落ち着いた作りになっています。一見地味で見逃してしまいそうですが、この後の美意識の変遷を知る上では目に焼き付けておきたいところです。




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95 大井戸茶碗 喜左衛門井戸 国宝 孤篷庵蔵 (展示期間:4月28日~6月4日)

国宝、喜左衛門井戸がまた見られます。

朝鮮では雑器として扱われていながら、日本では下剋上でもって茶碗の頂点に立った井戸茶碗。種類は実に様々ですが、なんといっても喜左衛門は必ずその筆頭に上がります。

喜左衛門井戸の鑑賞どころはその歪み具合。動的ながらも均整を保つその姿には名碗としての絶対の風格が備わっています。密度の高い貫入や美しい琵琶色もまた見どころです。





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103 千利休像 長谷川等伯筆 重文 正木美術館蔵 (展示期間:4月14日~5月28日)

あまり有名でない方の千利休像です。

ただこちらは利休在世中に描かれた肖像画であり、より利休の実像に近いと言われています。

虎の様にぎらりとした、野心あふれる瞳。実は利休はこんな人だったのです。

政治家としての、もう一つの利休の顔を知る上では外せない、見事な筆の肖像画であります。




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106 印可状 流れ圜悟 圜悟克勤筆 国宝 東京国立博物館蔵 (展示期間:4月11日~4月23日)

全ての墨跡は圜悟に収斂す。茶掛け最古の墨跡であるとともに最優品としても知られています。

流れ圜悟は現在でも墨跡ではかなり大きい部類でありますが、実はもとはさらに横に広かったのです。それを茶道漫画『へうげもの』でも描かれているように伊達政宗の所望で古田織部が裁断したという逸話があります。






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107 法語 破れ虚堂 虚堂智愚筆 国宝 東京国立博物館蔵 (展示期間:4月25日~5月7日)

流れ圜悟と対をなす墨跡の一品、それが破れ虚堂。

墨跡の愉しみは字の中に描いた高僧のひととなりを見出すこと。たいていの墨跡は上手いというよりはヘタウマの部類ですね。上手いとはいえなくとも味わいがある。虚堂智愚の墨跡はその典型と言えるでしょう。虚堂の字は一字一字にすさまじい個性を感じます。きっと独創的な性格の人だったんだろうなぁとか想像してしまいます。
 



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116 唐物茶壺 銘「橋立」 永青文庫蔵 (全期間展示)

千利休が愛してやまなかった橋立の茶壺も登場です。

豊臣秀吉に懇願されながら最後まで渡さずに大徳寺に預けてしまったというこの茶壺。利休の真意は分りませんが、彼の切腹の事情を知る生き証人なのかもしれません。

橋立の茶壺は茶壺でもとりわけ小さいのですがむしろ利休はその小ささを敢えて愛でたようであります。その裏には当時の茶壺珍重に対する抗いの意志があったのかなという気がします。






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117 唐物尻膨茶入 利休尻膨 永青文庫蔵 (全期間展示)

利休所持の茶入はどれもアクの強いものばかり。

特にこの尻膨は茄子茶入とも形状が違い、尻膨の名がつけられました。

この可愛らしい形状は狂歌をたしなんでいた利休なりの諧謔とでもいうべきでしょうか。

ぴょこん、と足った蓋もまた相当風変わりですね。




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120 黄瀬戸立鼓花入 銘「旅枕」 久保惣記念美術館蔵 (展示期間:5月16日~6月4日)

利休所持の名品、旅枕は必見です。

千利休はその数寄眼でもって多くの埋もれていた茶道具を世に送り出しました。中でも一連の黄瀬戸立鼓花入れは有名です。

立鼓花入といっても形は様々で、特にこの旅枕は縦に細長い出来となっています。黄瀬戸の地味ながら美しい釉薬はとにかく実見して味わってみたいですね。






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125 書状 六月二十日 古織宛 通称「武蔵鐙の文」 千利休筆 東京国立博物館蔵 (展示期間:4月25日~6月4日)

千利休の書状は現在百数十通が残っていて、多くは懸け軸となっています。

中でもこの武蔵鐙の文は微笑ましい利休と織部、師弟交歓の消息となっており必見です。

利休の書はどれも達筆で急いで書かれたものばかりなので実に読むのには苦労します。ただその分利休のひととなりは伝わってくるようで鑑賞し甲斐があります。



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129 瓢花入 銘「顔回」 永青文庫蔵 (全期間展示)

利休は身近な景色の中にも数寄心を働かせ、「見立て」という方法で本来違う用途で用いられていた道具を茶道具に転用しています。

今でこそヤシの実を菓子器に使ったり竹を花入れに用いたりというのは当たり前になっていますが、それを始めたのは利休でありました。こちらの瓢花入れ当初はきっと驚きをもって迎え入れられたことでしょう。私は底紅のムクゲをこの花入れに生けてみたいですね。




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134 赤楽茶碗 銘「白鷺」 長次郎造 今日庵蔵 (全期間展示)

長次郎の名品茶碗、たくさん出品されています。

楽茶碗を利休とともに生み出した長次郎の茶碗、今見ても斬新さにあふれていると思います。

赤楽の白鷺はあまりお目にかかれることが無いので必見です。U字型に造られた形状は楽茶碗では少し風変わりかもしれません。そして流れる釉薬の美しさはこの茶碗に唯一無二の個性を与えています。



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137 黒楽茶碗 銘「ムキ栗」 長次郎造 重文 文化庁蔵 (全期間展示) 

異色の四方黒楽茶碗、ムキ栗です。こんな形状の茶碗、他にはありません。

長次郎の破綻の無い造形力にも敬服させられますが、こんなものを考え出した利休もまた怪物ですね。

たぶん私はこれが今回一番見たかった茶道具かもしれません。




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139 黒楽茶碗 銘「万代屋黒」 長次郎造 楽美術館蔵 (展示期間:4月18日~6月4日)

打って変わって大変大人しい作風の万代屋黒です。

映画「利休にたずねよ」で用いられた茶碗としても知られています。




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144 竹茶杓 タダイエ様参 千利休作 北村美術館蔵 (全期間展示)

利休茶杓の代表作、タダイエ様参 です。

大変細身な茶杓で、侘茶らしい緊張感に満ちていると言えます。

茶杓の櫂先は丸く、ゆるやかに反っています。後の織部や遠州の角ばった茶杓と比較とその美意識の違いがよく分るでしょう。







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146 山上宗二記 山上宗二著 不審庵蔵 (全期間展示)

茶道の最重要古典、というとこの山上宗二記です。

茶道では基本的に口伝と言って、大事なことは文字ではなく口で指南をしていました。まぁ今の淡交社と家元が結託して大量出版しているのとは全く違っていたわけです。ですから茶道ではなかなか古典というものが見当たらないわけではありますが、この山上宗二記は信憑性という点ではきちんとしていますし、当時の茶の湯事情を知るには必読の書でありましょう。

山上宗二という人は剛毅者であったそうで、最期も秀吉から不興を買って処刑されたそうであります。この不審庵蔵の宗二記などを読んでいても茶人宗二の情熱がひしひしと伝わってくるようです。



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147 書状 二月十四日 松佐宛 千利休筆 松井文庫蔵 (全期間展示)

千利休在世中最後の書がこちら。

細川忠興に仕え、茶人でもあった松井康之(『へうげもの』でも登場)に宛てた消息であります。

書状というのは墨跡もそうですが、茶席での拝見際はその内容よりも、筆を執った人のひととなりを思うのが良いだろうと思っています。そう考えながら見てみると、この書状には死を前にした鬼気迫る利休の内面が筆に現れていますね。




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149 伊賀花入 銘「生爪」 個人蔵 (全期間展示)

古伊賀の最優品、生爪も見られます。

かの古田織部が所持し、弟子の上田重安に「生爪剥がされる想いで譲り渡す」という旨の書状が付属していることからその名があります。

私としては先の黒楽「ムキ栗」、あとで登場する174番の黒織部菊文茶碗同様に最も見たかった茶道具であります(いづれも『へうげもの』に登場)。

この流れる緑釉の美しい事、垂涎モノです。わりに古伊賀ではさっぱりした見た目という部類なのですが、なんせアクが強いですね。この茶道具から発せられる人工性は、時代の最先端を行った織部好みの影響を大きく受けている証左でありましょう。






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151 伊賀耳付花入 銘「破れ袋」 五島美術館蔵 (全期間展示)

古伊賀の顔、破格の造形の破れ袋です。

まぁ、誰もが見たことのある茶道具、といったら最近ではこれが一位でしょうかね。

これが茶道具なのか、とあきれるほどにボロボロです。『へうげもの』でも割れ目から水が漏れる描写がありましたけど、本当にそうだったんでしょうね。茶道具としてはぎりぎりの極地を行く造形を是非味わってみてください。





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153 小井戸茶碗 銘「老僧」 藤田美術館蔵 (展示期間:4月11日~4月23日)

小井戸の老僧、織部所持の名品です。

かなり傾斜のある造りが特徴の老僧、かなり尖っています。老僧というよりは一休宗純ばりの破戒僧を想像するのですけどね。並み居る大井戸茶碗とも間違いなく渡り合える名品でした。




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154 御所丸茶碗 古田高麗 個人蔵 (全期間展示)

幻の発注茶碗、御所丸です。

古田織部が朝鮮に切型を送って作らせたというこの茶碗、胴締、六角形の高台、口縁に異様な個性のあるあくの強い茶碗であります。まぁ真っ白というのはけっこう斬新さがありますね。形状としては普通なはずなのに、茶碗としてはありえないほどの我を主張してくる。織部好みの極地です。









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163 信楽水指 銘「柴の庵」 重文 東京国立博物館蔵 (全期間展示)

利休所持の信楽、柴の庵です。

信楽でもかなり前衛的な造形が楽しめます。鬼の肌と言われる赤くてざらついた器の地を隠すかのように流れる釉薬が見事な景色を映し出しています。なかなか濃い色の造形が楽しめるのです。そして三井寺の鐘が如く生じたひび割れもまた見事。侘びを演出していますね。






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166 瀬戸グロ茶碗 銘「大原女」 個人蔵 (全期間展示)

真っ黒茶碗の元祖、瀬戸グロです。

見事なまでの総黒、そしてそり建つ壁の如き筒形。独特の造形は多くの茶人に愛され、黒楽茶碗にも影響を与えたことでしょう。一見直角に見えるのですが、微妙に歪みも入っており桃山時代らしい破格さを持っています。




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171 志野茶碗 銘「卯花墻」 国宝 三井記念美術館蔵 (全期間展示)

和物茶碗としては光悦茶碗の不二山と並ぶ国宝の卯花墻です。

なんというか、志野茶碗は私的には白い釉薬や寸胴の造形が実にどれも野暮ったく見えてしまうのですが、この卯花墻に限っては全くそんな印象を抱きません。全く無名の陶工の手から生まれた破綻無き志野の完全形。まさにこの茶碗の誕生は奇跡と言えるでしょう。




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174 黒織部菊文茶碗 個人蔵 (全期間展示)

優越なる意匠の勝利、黒織部です。

黒織部は実に茶碗によって個性が様々です。なかでもこちらの菊文茶碗は四種類の釉薬を丁寧に使い分け、誰も見たことの無い斬新な意匠を創りだしています。窓の様に開かれた白釉に描かれた菊の絵、なんとも緊張感のなかにかわいらしさがあって微笑ましいものです。




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183 黒楽茶碗 銘「時雨」 本阿弥光悦造 名古屋市博物館蔵 (全期間展示)

光悦茶碗からは黒楽の最優品、時雨が登場です。

線と円をこれ以上なく強調した本阿弥光悦の手捏ね茶碗はとかく芸術性が高く印象に残ります。この時雨は艶光りのある黒釉が窯の中で溶け込んで、まるで雨中のごとき景観が偶然にも出来上がりました。実物は本当に迫力があります。スパッと切られたかのような口縁にも是非注目してみてください。






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186 禅院額字 「潮音堂」 無準師範筆 重文 致道博物館 (展示期間:4月11日~5月1日)

一字千金、小堀遠州の愛した墨跡です。

宋代の禅僧である無準師範の文字であります。無準師範は国宝の画像でその容貌を偲ぶことが出来ますが、至って温和そうな、微笑みさえ浮かべてそうな顔立ちが印象的です。墨跡の方もなかなか癖があって、中国的な無骨さのなかに一種の諧謔味があるようでとても味わい深いです。彼の墨跡は他に通称「橋渡しの文」も出ていますのでそちらもおすすめです。

またこれにまつわる数寄な逸話があります。小堀遠州の茶会に招かれた本田忠勝、この墨跡を気に入ってしまい、一字千金、三字で三千両で譲ってくれと懇願したそう。まあ遠州にとっては金子で譲れるようなものではなかったのでしょうが、お偉い人の要望だったので泣く泣く手放してしまったわけであります。




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191 菊花天目 重文 藤田美術館蔵 (展示期間:4月11日~4月23日)

遠州好みの華やかさ、菊花天目です。

瀬戸ってけっこう色は渋いのですが、黄瀬戸釉を流すことで其処に華が出来上がりました。此所にはまさに遠州でなければ見出さないような不思議な美の快楽があるような気がしましたね。




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194 古瀬戸茶入 銘「在中庵」 重文 藤田美術館蔵 (展示期間:4月11日~4月23日)

遠州最愛の茶入、在中庵、はるばる大阪から参上です。

遠州はけっこう瀬戸窯を気に入ってまして、自分好みの茶入をたくさん作らせていました。会場ではその一部を見ることが出来ます。一方でこちらは古瀬戸。なかなか渋い出来なのですが、この瀬戸釉ならではのまだらな色の世界がたまりません。遠州が意識していた色の美の世界が一つ此所に結実している感じがします。そして形状にも注目。もてはやされる肩衝でも、背高を選択するところにも遠州のこだわりはでています。








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209 祥瑞蜜柑水指 重文 湯木美術館蔵 (全期間展示)

色彩美の極み、祥瑞蜜柑(しょんずいみかん)です。

江戸時代には日本から切型を中国に送って景徳鎮など諸窯が焼かせるということが広く行われていました。そうして完成した焼き物、見た目は中華風なのですが、文様が和様であったり、歪みが入っていたりと、日本の美意識を反映した出来になっているのです。

この祥瑞蜜柑、とっても遠州好みです。遠州には単色に対する並々ならぬこだわりがあって、特に白、青、黄、瀬戸釉の茶色を好んでいました。この水指に見られるはっきりした色合いは日本的ではないながら、遠州が愛したことによって以降茶の湯でも好まれるようになったのです。




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215 色絵鱗文波文茶碗 重文 北村美術館蔵 (全期間展示)

京焼の精華、仁清の茶碗であります。

野々村仁清は京仁和寺に近接した窯で公家好みの焼き物を作った人です。その志向において、茶道具を使うものとしてよりも、見るものとして捉えたがために、現在では大変芸術性を評価されています。言ってしまえば、茶道具なのに茶席には合わないわけです。なぜなら仁清の茶道具は鑑賞こそが目的だからです。

こちらの鱗文波文茶碗などを見ると、一介の焼き物には考えられないほどの技巧がつめこまれています。まさにこの見て楽しむ型の茶道具は当時勃興しつつあった公家の需要に応えたものだったでしょう。




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225 奥高麗茶碗 銘「深山路」 個人蔵 (全期間展示)

松平不昧遺愛の唐津、深山路です。

松江藩主、松平不昧は江戸時代最大の茶道具蒐集家といっても差し支えないでしょう。その蒐集は雲州蔵帖にも記載されていますが、藩の財政を軽く傾かせるほどに金子をつぎ込んだそうであります。その代表格が先の喜左衛門井戸です。小堀遠州を敬愛しながらも、侘びを志向した彼の美意識は時代の一つの到達点でありました。

不昧が命銘したこちらの奥高麗、かなり渋いです。千利休がこの時代に生きていたら所持したであろう茶碗ですね。奥高麗は唐津焼でも特に侘びた部類に入るのですが、これを所持した不昧も相当侘茶を知っていたのです。





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259 大井戸茶碗 細川井戸 畠山記念館蔵 (全期間展示)

本展覧会の大トリは細川井戸です。

展覧会の最後では近代の茶人特集があります。この細川井戸を所持した畠山即翁という人は荏原製作所を創設した実業家でもある傍ら、時代を代表する茶人、蒐集家でありました。当時寺社、名家から四散していた茶道具を血眼で彼は集めていたわけでありますが、中でも指折りの名品がこちらの細川井戸。喜左衛門井戸と張り合えるほどの見事な緊張感を湛えているのです。喜左衛門井戸が少し異様さ不気味さを持っているとすれば、こちらは欠けたところの無い優等生的な雰囲気を持っております。


いかがでしたでしょうか。名物には興味がない、茶道具のことが分からないという人ほど、この展覧会はおすすめです。良い物を見ると、人間の数寄欲は自然と開眼するものです。まあこのような豪華な展覧会は之を逃したら次は20年後くらいでしょうから、一度とは言わず、何度でも行ってみてください。