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本日打ち曇りて、温室の中の如く蒸し暑し。遠雷あり。南方に怪しげな鼠色の厚き雲あり。



10時起床、おじじは畑仕事。今日は藍色麻の葉の浴衣着る。帯は米沢。

11時食事抜き家を出て、乗合へ。12時前、銀閣寺道にて降りる。吉田の構内へと向かう。

浴衣を纏いし物見やサクソン人共の二三組とすれちがう。あとは吉田の学生。

学食は麺類で軽く済ませり。持ち込みの蜜柑食す。スルピリドと漢方を服用。知った顔のいくらかとすれ違えり。

生協。バタイユの『眼球譚』初版を立ち読みす。猥本なり。部外の70歳前後と思わしき文学少女、仏文学の何かしらを立ち読みす。

吉田大元宮より南下、神楽ヶ丘に至る。真如堂前町に愛猫家の宅あり。雑種の2,3匹玄関の塀の上などで寝ころぶ。

薮蘭咲きはじめ。真如院の子院門前に萩の花まばらに咲く。黒谷さん堂脇ではようやく芙蓉の花の二三輪咲けり。芙蓉は気品のある雑草。我が好むところの花なり。あともみじ葵も見つけり。

14時、神楽ヶ丘を下り、聖護院門前の甘味処で喫茶す。所持のモオパッサン短編を読みながら二時間ほど過ごす。モオパッサンはいささか俗臭ただよう作家なれども、技巧の人だとの感想を抱く。女性の描写には男性作家ながら優しげなところあり。

cabを東大路丸太町で拾って大丸京都まで行く。10分で2000円。三条大橋を横目に市役所を通り過ぎ、小路に入り、錦小路で降りる。市場ではおじじの為に例の「貝」を求める。他に寿司や白味噌など。大丸で化粧水求める。計15000円。

帰りは四条烏丸より乗合乗り継いで19時前に大原井出に着く。日は没して、からす共悪巧みし、何やら不穏な色の空。

おじじは我が帰りを10歳児のように待ちわびれり。彼は既に福寿を飲せり。おじじに勧められたので私も冷やしておいた菊水を出して飲む。「貝」のこと、大層おじじは喜ぶ。味噌汁を作ったのみで、あとは酒で腹を膨れさせる手抜き料理。ディースカウのシューベルトを聴く。私はおじじに丸山応挙の「七難七福図」に大いに感銘を受けたことを話す。特に強姦された女の描写に衝撃を受けた。人間の価値というのはまるで仮のものに過ぎない。どれだけ尊い者であろうとも、すべてを失い、大事なものを奪い去られた者と何の違いがあろう。私がそう言うとおじじは秋風に吹かれた人のような顔をして、黙っていた。もうしかしたら娘の私が犯された図でも想定したのかもしれぬ。おじじは私の弁を肯定する代わりに応挙の大石良雄図のことを話せり。おじじの一番応挙で気に入っている絵。彼の良いとするところは大石内蔵助ではなく、その隣で文を持つ女なり。応挙は西王母などの中国美人と、江口君などの日本美人とを、その顔立ちで峻別するのだと言う。なるほど前者は面長で何か威厳ある顔立ちなれども後者は丸顔で柔和な感じせり。それにしてもおじじには犯す犯されたのは話は止めたほうが良し。

ほろ酔いで八畳間に引きさがり床を敷く。書院の棚上の銅耳付花入れには芙蓉花ありて、水のおかげか、電球のおかげか、いまだ萎まずにいれり。風呂に入りに行く際、芙蓉の事、おじじに礼を言う。