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奈良がとても近くなった。また奈良に行くことになった。

縁は不思議。人は宝。心はまさしく力。そういうものだと教えていただきました。

ただ逍遥するだけでいい。それだけで人と人の距離が、人と佛との距離が近いのが奈良なのです。



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奈良、とはいっても浄瑠璃寺のような山一つ隔てた静かな里ともなると奈良らしくないとでもいわれるかもしれません。否、しみじみとした、忘れ去られたような、浪漫に満ちた風情はやはり此所も奈良と同じだ、と思わせてくれるのです。

近頃浄瑠璃寺などはとみに有名になって、直通の乗合もあるので人も増えているのですが、それでも隠された里としての神秘さは残っています。本当に、とっておきです。




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浄土庭園の池には端正な九体阿弥陀堂が映ります。

寄棟の長い建物。平安末期の浄土思想の広がりの中で貴族によって作られたものでありまして、全国でもここ一例のみという稀有な遺産です。中にはやはり阿弥陀様が九体おります。その仏像様にどういう印象を抱くのは人それぞれ。最初ここを私が訪れた時には、如何にも成金趣味な金ぴかな仏像だなぁと感心しなかったのを覚えています。ですが今回はどれも非常に端正な定朝様の傑作だと、全く逆に感じられました。前来た時と全く違う心理状態にあって、仏像から受ける印象が変わったということでしょう。想像だにしなことでした。






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のびやかな作りのお堂。その柱間の向こうにはそれぞれの阿弥陀様が静かに佇んでおられます。





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秋過ぎゆく境内、お寺の四季は生の喜びを我々に教えてくれます。




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懐かしい干し柿の味、誰もがそのような素朴な人生を通ってきたのです。



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往く道を見守る石仏様、ここは阿弥陀の里。



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仏様は地中にあっても定まって座し続けているのです。



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こぼれ日の道、このような簡素さを、生活の苦無き絵画の世界を夢の中で歩くのでしょう。





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里の後ろの竹藪も心なしか赤く染まっているような。強い明るみを持つ空はまだ秋模様。



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善意と善意がめぐり合う所に、無人売店。箱の中の銭を取る人など誰もいない。



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大和路、古の仏様。それだけでもう、心がいっぱい。美にあふれています。



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戻ってきて、奈良の市中。強欲な興福寺の中世伽藍と相対します。




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国宝の康慶作の不空羂索観音がいます南円堂。西国三十三か所の札所でもあります。観音霊場らしい開放的な明るさがあります。




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奥の方でひっそりしているのは北円堂。屋根の下の蟇股の連続する様が如何にも中世伽藍らしい風格を漂わせます。此所におります運慶作の無著世親像は東京国立博物館へ出開帳中でありました。



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私が最も奈良で美しいと思う仏塔、それは薬師寺東塔でも室生寺五重塔でもなくてこの興福寺の最も目立たぬ三重塔であります。

一層目が4間、二層目が2間、三層目が1間と、なっております逓減率の絶妙さが、私の見た中では最も大胆で音楽的であります。北円堂に共通する中世にどっぷり浸かった意匠も秀逸。何よりこの主張しない場所に居続けているのが良いような気がいたします。



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猿沢池が冬の快晴に見事に池面を鏡にして映していますと、竜神の居る神秘的な伝説にも首肯が出来そうです。




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やはり猿沢池といいますと此方側からでしょうか。この辺を朝に散策したいのですが、ともなると宿坊とか菊水楼とか、奈良ホテルとかになるのでしょう。ならまちにもひっそりとした町家の宿など京都に倣って出来ているのかもしれませんが。



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秋の鹿は、大人しい。不断はあまり神の使いとして賢明では無い様な行動ばかり目にするのですが、此度は実にお行儀が良くて吃驚したのです。雌の眼は釈迦の様に穏やかで、角を取られた雄は去勢されたかのごとく萎んでいる。これを奈良の鹿だと思っていると春にはまた痛い目を見るのでしょうが。





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午後の日はもう影をあんなにも伸ばして。

奈良国立博物館の外壁です。土蔵に倣ったような、最低限の窓しか設けない意匠は、内部に居ると実に陰気なのですが、こうやって見ると案外格好いいです。




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鹿さんが笑っていらっしゃる。

動物が手を合わせたとしてもそれは仏性ゆえの行動ではない、とどこかの和尚さんがおっしゃっていたのを思い出します。お猿さんは決して仏など信じぬのです。でもこの鹿の目は、私には仏様の眼そのもののような気がします。とても悟ったような眼。そんなことを言うとまたお前は外見しか見ておらぬと怒られるのでしょうが。






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群がる、牝。これだけいるとちょっと壮観。





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南大門の無骨な建築を抜けて東大寺に入る。いつの間にか興福寺から東大寺の境内に来てしまうんですね。





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坂の上には青空に負けじともみじの、紅。



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朝鮮王宮めいた東大寺鐘楼の上には澄んだ青空。寒さが一層色を洗練させます。



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東大寺三月堂。左が奈良時代の元からあったもので寄棟造り。右は礼堂で鎌倉時代に足したもので入母屋造りです。

前は工事中だったので見られませんでしたが、此度は三月堂観音様を拝観しました。異例中の異例、とでもいいますか、実に人を圧倒して置き去りにする恐るべき仏様であります。




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三月堂北側、寄棟の構造がよく分ります。



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二月堂は見晴らしが良いので遊行場のよう。石段の艶は静かに時間の経過を教えてくれます。



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巨大な東大寺伽藍はその裾野も広く、端から端まで巡るだけで一日が終わりそう。夕陽はもう大仏殿の下に没する前。





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講堂跡の人もまばらなる道。奈良は都市の中に空洞がある。終わってしまった都という歴史の空洞がある。それが人にも大いなる豊かさを与えるのです。



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大仏殿の鴟尾の上では烏集まり、木々はもはや夕闇の影に飲まれようとしている。紅葉もまた色を失う。そんな一瞬に立ち会える贅沢があります。



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池辺の大きな銀杏の木。その下には落葉と厚い暗がりが拡がります。



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奈良国立博物館の本館は松林の中にあり、西洋面の中にも不思議と柔和な感じがあります。今回ありがたくも正倉院展の最終日に駆けこむことが出来ました。




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博物館を出て、もはや5時前に夜の世界へと移行を完了しつつあるならまちへ。

ならまちのほうでも不思議な出会いがありました。たまたま入った殆ど名の知れぬ居酒屋で日の変わる直前まで地元の人と飲み明かして。もうなにもかも忘れたのですが、奈良再訪の際には必ず顔を出すと約束しました。これもまた強い縁です。

奈良には今回がっしりと掴まれてしまった気がします。私の方では美しい恋人でも貰った気でいます。今度は名物の三大椿と観桜をしに行きましょうか。またちかぢか。