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秋は静かに色あせて、もはや寒々とした空気と長い夜が覆い尽くすようになりました。

もう鮮やかな紅や錦は終わったのかと思いきや、案外都の様々なところに色は残っています。

陽光に当たるとまぶしく、曇天の下ではしっとりと、まだ色の妙を楽しむ時間は残されておるのです。

思いがけず私も佳日の中を少しだけ歩いてきました。





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渋谷駅から東急東横線で一駅、洒脱の風情のある代官山の喧騒から取り残されたが如くにある一つの屋敷が残っています。

日本家屋には稀有なる均整を湛えた正面玄関を持つこのお屋敷は朝倉邸といいます。

代官山から徒歩5分、かつては富士の展望もあったと言う、目黒川に近接した坂の斜面に建っています。

かねてから訪問を切望していたのですが、この度は青山の根津美術館を訪れた後でこの場所にも立ち寄ったのです。



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気楽で開放的な茶飲み処。

崖に面したお庭にもこの時期は見どころが沢山あります。




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延びゆく日の影が開け放たれた室の隅々まで手を伸ばしていく。

一見鄙びたような、而してその実「市中の山居」というのは最上の贅沢、貴族の趣味です。



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見逃して終いがちですが朝倉邸は襖の絵も素敵。

色あせて傷みも激しい中で、よくよく見ると一つ一つに鮮やかな風雅が込められています。




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西日が容赦なく入ってくるのが二階の廊下。





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御殿の如き美事な普請の広間。

今になっても木の目や襖の絵は光り輝いています。





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遅まきながらもやってきた最上の秋の演出。

邸宅の上質な均整美と並ぶと楓の色合いはより妙味を増します。



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広く取った縁側は実に貴族趣味的。

そこに侍る整えられた巨石もまた温泉旅館の豪華な外風呂を思わせるような。




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屋敷の上の美しい空。

その青は真夏の陽光差す青なのではなくて、よくよく見ますと寒さによって洗練された、混じり気の無い青なのです。




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外界の喧騒に飲まれるかのところでその均整を危うくも保っている朝倉邸。

内側からも腐食は忍び寄り、風雅と誇りの香りは失われつつあるお屋敷。

しかしそのようなことも錦秋と透き通る青空の下では忘れられてしまう。

それほどに美しい光景を私は此所で目撃したのです。




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邸宅を去って。

坂を下り目黒川を越え中目黒へ。

次は水仙の頃か、それともつつじか。

もはや顧みられぬ都会の中の古い美が凝縮されたような場所でした。