仁清の茶道具、と言えばやはり茶壷でしょうか。藤花や梅花の。それとも香炉でしょうか。金沢にある雌雄一対の雉の香炉ですね。

仁清と言う陶工は手広く茶道具を焼いています。さすがに茶釜は例外ですが、茶入・茶壷・建水・花入れ・香炉・水指・向付・鉢など、とにかく当時扱えるものは全部扱っているという感じです(でも蓋置は見つかりませんでした…)。楽焼や萩焼が茶碗を、瀬戸焼が茶入れを、信楽・伊賀が水指や花入れをそれぞれ専門としたのに比するとこの範囲の広さは何なのでしょう。

ですから仁清といえば何のお道具、と言われてもある人は香合だと答え、別の人は否、花入れではないかと答えるかもしれません。それだけ仁清作品は茶道具を見つめてきたのです。

一方、茶道具の中心はと言うと、これは時代によって変遷があります。戦国時代は茶壷が、江戸時代は茶入れが、そして近代は茶碗が茶人の魂であったというと分かりやすいでしょう(語弊はあるでしょうが)。注目したいのは江戸時代においては茶入れ>茶碗だったのが、近代になっていつの間にか茶入れ<茶碗に変わってしまったということです。そもそも、「えっ、茶道と言えばお茶碗じゃないの!?」という声が聞こえてきそうですが、実はかつては茶入れが第一位だったのです。茶入れって抹茶を入れるものですから、そりゃ重要視されますよね。この価値転換、結構茶道の歴史にとっては大事件であって、楽焼が瀬戸焼を差し置いてナンバーワンの地位を手に入れることにもつながるわけですし、茶碗に強い萩焼や唐津、志野(国宝・卯花墻を生んだ)の価値を高めもしました。

茶碗、と言えば仁清も結構お茶碗造っています。しかもどれもきちんと彼の息がかかった逸品ばかり。最近はなんだか数茶碗やらで仁清写しを見る機会が多いので、あれっ仁清って安物じゃんと思われがちですが、本物の仁清茶碗は全然そんなことありません。今回は23碗の仁清茶碗をピックアップしましたので是非ご覧ください。




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色絵花輪違文茶碗 サントリー美術館蔵 

高さ8.2㎝ 口径12.8㎝ 高台径4.8㎝

まずはこのカラフルな七宝文様が映える色絵茶碗から。金縁とベースの黒釉が実にこのお茶碗の見栄えを特別なものとしています。上部の七宝文様、下部の蓮弁文様ともに八つづつ描き、幾何学的な美しさを現出してます。形状もちょっと風変わりで、下部に面取りを施してあり、高台付近を平らにすることでホームベース状の造形となっております。







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色絵鱗波文茶碗 重要文化財 北村美術館蔵

高さ8.7㎝ 口径12.4㎝ 高台径5.0㎝

加賀藩家老の本多家に伝来したと言うこちらの茶碗はまさしく仁清デザインの真骨頂。日本風を思わせる鱗文は八段に渡って描かれており、整然とした印象を与えてくれます。それでいて茶碗の形態は胴を締めて口縁の少々すぼんでいるという一工夫こらされたものです。そしてなんといっても緑釉の自然を思わせつつも意図的に流しかける「掛け切り手」の手法は茶碗全体の景色を面白くし、数寄者の心をくすぐってくれるものがあります。




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色絵武蔵野図茶碗 重要美術品 根津美術館蔵

高さ8.7㎝ 口径13.1㎝ 高台径5.2㎝

大きな満月の下でそよぐ薄の姿を捉えた叙情的な逸品です。

形状としてはお椀形でかなり口径が広くとられています。満月は白釉、夜の背景は茶褐色の釉薬でもって表現されており、薄の葉は緑と青、穂先は赤で描かれています。薄は器面全体に群生するが如くに広がっており、内側にまで伸びているという手の込みよう。

図柄としては琳派を想起させるシンプルさです。酒井抱一は仁清より後の時代の人ですが、彼の作品である「秋草鶉図」などと共通する美意識を見出せるのではないでしょうか。





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色絵青海波文茶碗 個人蔵

高さ8.6㎝ 口径12.4㎝ 高台径5.2㎝

胴を絞って口縁の少しすぼむなどした「宗和好み」の形状をした茶碗。

器面いっぱいに青海波が非常に精緻な筆でもって描かれ、一部には波濤文様も見られます。上部を中心にかかる緑釉もまた岩に当たり砕ける波のような広がりを見せています。

仁清の描く波濤の文様は尾形光琳の波濤図(メトロポリタン美術館蔵)を思わせます。



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色絵金銀菱繋ぎ文茶碗 愛知県陶磁美術館蔵

高さ8.9㎝ 口径12.5㎝ 高台径4.6㎝

黒釉の印象的な「宗和好み」のお茶碗。この黒釉には鉄釉が含まれているため、少々青く光っています。中央部には帯状に白釉がかけられ、金と銀がその上から施されていますが、長年の使用のためか一部剥がれてしまってます。銀の菱文様は仁清にしては珍しく無造作に描かれていますが、それがまるで踊りだすかのような楽しい雰囲気を生み出してます。

公家の近衛家伝来とされています。仁清の茶道具はお公家様のために焼かれたものも少なくありませんので、こちらのお茶碗も金森宗和経由で制作を依頼されたのかもしれません。



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色絵金銀菱文重ね茶碗 重要文化財 MOA美術館蔵

右:高さ8.1㎝ 口径8.9㎝ 高台径4.9㎝
左:高さ9.2㎝ 口径9.9㎝ 高台径4.9㎝

お正月に使う島台茶碗みたく重ねて使う事の出来る、おめでたい風情のある一対の筒茶碗です。

金森宗和が東福門院和子の献上品として仁清に造らせた茶碗と伝わっています。そのためか、仁清お得意の金と銀が菱文においてふんだんに使われております。

ベースとしてかけられている白釉も大変高貴なのですが、口縁や菱文、蓮弁文を縁取っている赤色が大変かっこいいのです。金沢のべんがら色の茶室みたく、この赤色は非日常の、ハレの日の赤と言えるのではないでしょうか。




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忍草絵茶碗 香雪美術館蔵

高さ8.4㎝ 口径12.4㎝ 高台径5.2㎝

忍草とは羊歯のこと。「忍」は「偲ぶ」にもかけて使われることがあり、昔は羊歯そのものだけでなく、忘れ形見的な意味でも用いられてました。

仁清の絶妙な造形が発揮された逸品であり、穏やかな轆轤目の美しさや青釉のじわりと侵食するかのような掛け具合、白の卯斑(うのふ)釉と青釉が交わる様など、魅力は尽きません。

加賀前田家の伝来品で、金森宗和の伝手で渡ったものと思われます。




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色絵紅葉賀茶碗 東京国立博物館蔵

高さ10.3㎝ 口径11.5㎝~12.0㎝ 高台径4.6㎝

京焼らしい華にあふれたお茶碗です。

五七桐に菊の文が入った幕の向こうからは色鮮やかな紅葉が。左側には鉦鼓という雅楽で使われる打楽器が描かれています。



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色絵扇流し文茶碗 湯木美術館蔵

高さ7.0㎝ 口径13.2㎝ 高台径4.9㎝





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色絵菊文茶碗 東京国立博物館蔵

高さ7.5㎝ 口径12.5㎝ 高台径5.9㎝





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色絵波に三日月図茶碗 東京国立博物館蔵

高さ9.2㎝ 口径12.6㎝ 高台径4.6㎝

弓を引くような細い三日月が印象的な作品です。

いわゆる呉器写しと呼ばれる形の茶碗であり、高さに対して口径が小さく作られる独特の形状となっています。また高台には二か所削りが入っていたり、正面を平らに押していたりと、仁清らしい工夫にあふれています。



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色絵梅花文茶碗 東京国立博物館蔵

高さ5.2㎝ 口径12.3~13.0㎝ 高台径5.3㎝







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色絵鉄仙花文茶碗 根津美術館蔵

高さ8.6㎝ 口径12.2㎝ 高台径5.2㎝

私が最も仁清らしいと思うのが、先ほどの忍草の茶碗か、もしくはこの鉄仙文様の茶碗であります。仁清の絵付けは一見誰もが真似できそうなくらいシンプルで日本的である。でも実はよくよく見てみると、一ミリも筆が動いてしまっては駄目になるようなものばかり。そういう点ではこの鉄仙文様茶碗は仁清の技巧の極致だと思います。

形状としては中段を軽く締め、口縁はすぼんでいる宗和好み。必殺の掛け切り手も正面からは見えにくいですが、向こう側の景色では白釉が如何にも自然に掛けられており健在です。



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色絵結び熨斗文茶碗 根津美術館蔵

高さ8.2㎝ 口径13.0㎝ 高台径4.5㎝




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色絵牡丹文茶碗 MOA美術館蔵

高さ8.1㎝ 口径12.9㎝ 高台径4.9㎝




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色絵龍田川文四方茶碗 MOA美術館蔵

高さ7.9㎝ 口径12.3㎝ 高台径4.9㎝




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色絵歌書巻文四方茶碗 MOA美術館蔵

高さ8.1㎝ 口径12.8㎝ 高台径4.9㎝



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錆絵梅花文茶碗 MOA美術館蔵

高さ9.4㎝ 口径11.4㎝ 高台径5.9㎝

ラッパ形の轆轤目が粗い、仁清には珍しい茶碗です。

白釉をベースに、錆釉で月や梅花を表現する手法を取っています。ぼんやりとした灰色の月、それは綺麗というよりも少々荒涼とした風情すら感じさせてくれます。




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錆絵瓢箪唐草文茶碗 個人蔵

高さ7.5㎝ 口径13.5~14.2㎝ 高台径4.6㎝





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流れ釉茶碗 銘 片男波 個人蔵

高さ9.4㎝ 口径12.6㎝ 高台径5.0㎝

赤茶けた素地に白波を表現した兎斑(うのふ)文様の釉薬が印象的な作品です。

銘の片男波は山部赤人の歌「和歌の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る」の「潟をなみ」に字を当てたことから来ています。




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錆絵水仙文茶碗 重要文化財 天寧寺蔵

高さ8.6㎝ 口径12.6㎝ 高台径4.0㎝

金森宗和の菩提寺、京都、鞍馬口の天寧寺に伝来したこちらの茶碗は重要文化財指定の逸品です。

誰かの墓前に手向けられたかのような水仙の花は、仁清お得意のデフォルメを用いない、どちらかと言うと写実味のある筆致であります。とりわけ一本優しくカーブを描いて折れ曲がる葉っぱは如何にも水仙の優しい性質を捉えたかのようでありますし、消え入りそうな錆絵の花からはあの芳香がどこからともなくやってきそうな雰囲気があります。






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呉器写し茶碗 銘 無一物 静嘉堂文庫美術館蔵

高さ8.4㎝ 口径12.7㎝ 高台径5.8㎝

ぱっと見、なんの変哲もない呉器写しのようですが、よくよく口縁の左側を見ると少し平らに押しが入っているのが分かるかと思います。この茶碗の一面だけを平らにする手法、ほかの仁清茶碗にもありますので見つけてみてください。



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海鼠釉象嵌桜文茶碗 東京国立博物館蔵

高さ7.3㎝ 口径9.9㎝ 高台径4.1㎝

「海鼠釉」とは私が便宜的に名付けたものなのであしからず。なんとも仁清らしさがありませんが、象嵌でもって桜の文を描き京焼の華やかさを出そうとするところに彼らしさを見出しても良いのではないでしょうか。



如何でしたでしょうか。仁清茶碗のイメージ、変わりましたでしょうか。

簡単そうで、真似できない、仁清の高くて厚き壁。現代の京焼隆盛の中にあって、仁清の芸術というのはまるで今の焼き物とは一線を画されるべきものなのです。

「でもどうしても今の京焼のイメージが先行して仁清を評価できない」と思われている方もいらっしゃるかと思います。それはその通りなところもあります。何故なら京焼の歴史と仁清は不可分なものだからです。

ではどうすれば良いかというと、仁清デザインを見るのではなく、彼の技巧に目を凝らすことが重要なのです。例えば、北村美術館にある色絵鱗波文茶碗。あれなんかは鱗文に掛け切り手の釉薬というデザイン性という面ばかりが評価され、写しも造られていますが、技巧という点にも注目して見て下さい。あの鱗文、一つの中にまた金色で18個の鱗文が描かれています。茶碗全体で、私が写真で見える限りで数えただけでも、90個の鱗文が描き込まれており、その美しい幾何学文様は何処をとっても変わることがありません。

デザインは無限に増殖しうるのですが、技巧とは一回きりです。だからこそ、モノには価値が生ずるのです。仁清はデザインにおいて天才でしたが、技巧においてもまた天分の性を持っていたのです。それを端的に教えてくれるのが仁清のお茶碗ではないでしょうか。